翌日、パソコンに向かっている私の隣から何度も視線を向けられる。
「結城さん? どうした? どこか分からない?」
「はい。分かりません」
「どこどこ?」
早く質問してくれれば良いのに、と思いながら結城さんの手元を覗き込む。
けれど、ぱっと見では出来ているように見えるのだが……。
「月見里チーフ、私の気持ちに気付いてましたよね」
「へっ?」
「それならそうと言ってくれたら、……私一人でバカみたいじゃないですか……」
「え? あ、あーー、ごめん」
結城さんが言いたいのは私と松岡くんの関係だろう。付き合ってるって早く言ってほしかった、と言う意味に聞こえた。
でも、フリなの。期間限定なの。……なんて言えないし。
友梨さんたちがアメリカに行って、私と松岡くんの関係も解消したら、またアピールしてもいいんだよ、って今は言えないけどね、
……と思った瞬間、胸が痛くなる。
なんだろう、この気持ち……。
分からない気持ちに胸が痛む。分からないけど、でも確かに小さく『嫌だな』と感じた事は分かった。
「月見里チーフすみません。それだけどうしても言いたかっただけで。早く教えてくれたら良かったのになって、昨日からずっとモヤモヤ考えてたから。
それから、知らなかったとは言え色々すみませんでした。……よし! 仕事頑張ります!」
笑顔で切り替える結城さんに驚きながらも、「ごめんね、ありがとう」と返し、またパソコンに向かった。
上の棚にある資料のファイルに手を伸ばしていると、後ろから来た手にそれを取られる。
「これ?」
ビクリと肩が上がる。今までこんな反応したことなかったのに、昨日の話しを思い出して……、この声は、私のことを好きな……
「カワベ、アリガト。ソレ、ソレ!」
「そんな反応されると、ちょっと切ないんだけど。いつも通りフツーに頼むよ?」
「ご、ごめん。うん、フツー、フツー、アリガト、アリガト!」
川辺の手からファイルを受け取ると私は後ろに足を二歩下げた。早く進行方向に向きを変えればいいのだが、私はそのままもう一歩後ろ向きに足を下げたために、そこにいた人物に気付かず、背中からぶつかってしまった。
「危ないですよ、ちゃんと前を向いてください」
「ごめん! 大丈夫?」
後ろから両肩を支え倒れないようにしてくれているのは松岡くん。覗き込むように顔をうかがわれてその近さにドキっと胸が鳴る。
「僕は大丈夫です。月見里さんは?」
「だっ、大丈夫です」
声が上擦る所に、川辺からイチャ付くなと、呆れた声が飛んで来て、慌てて松岡くんから離れる。
「あーあ、残念」
そう小さく呟く松岡くんに、残念じゃない、と返して自席に急いで戻ると結城さんに冷ややかな目を向けられ、咄嗟に謝る。
「すみません」
「いえ」
私はその週ずっとそんな感じだった。