あれはやっぱり冗談だったのだろう。
松岡くんと仕事上のやり取りはあっても、それ以外では何も言って来ないし、それこそなかった事にされている。
ちょっと残念――な、……なんて思ってない、思ってない!
だって私には、と思って頭に浮かぶ顔が霞んでいて苦笑する。もうあまり思い出せない彼は、もう私の彼ではない。いい加減、前に進まなきゃいけないと思い直す。きっともう日本に帰って来ないのだから、もしかして、なんて待つ必要はない。
なんとなくグチャグチャな気分を立て直そうと、日曜は久しぶりに街へと出掛けた。
映画でも見て、買い物して、ご飯を食べよう。
電車に乗って街中へ。映画館までの道をゆっくりと歩き、ウインドウショッピングを楽しむ。
途中、シンプルな雑貨屋さんの前で足が止まった。
シンプルな雑貨に合わせて木のぬくもりと緑を感じるナチュラルな内装に惹かれ、入ってみようとした所で、足が止まる。
「あ!」
「あ……」
店内にあった知った顔。
そこにいたのは女の人と親しげに隣り合う松岡くんだった。
なんだ。ちゃんと彼女いるんじゃない。
それならそれで、結城さんからのアプローチを断ればいいのに……。
私が心配する必要なんてなかった。お節介もたいがいにしなければ。
「お知り合い?」
「ああ、会社の」
スラリとした美人な彼女と松岡くんは、どこからどう見てもお似合いな美男美女。
「
「こんにちは。同じ会社の月見里です。デート中ですよね、邪魔してごめんなさい」
失礼します、と頭を下げる。
邪魔しちゃ悪いと思って挨拶も早々に歩き出そうとするのに、待って、と松岡くんが止める。
「友梨、この人だよ、僕が付き合ってる女性は」
そう言って私の肩を自然に引き寄せる松岡くんに、私は目を見開く。
「あらっ!」
「何してんの? ちょ、ちょっと彼女さんの前でナニ訳分かんないこと、冗談言ってる場合じゃないでしょ!?」
「ふふっ、仲が良いのね、良かった。安心した。月見里さん、」
「はいっ」
「
「うん。気を付けて帰って」
バイバイと手を振る松岡くんを唖然としながら見上げる。
私の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。