第40話:器のサイズ

 エーリカの快進撃はとどまることを知らぬかのようであった。兄王派として正式に槍働きをおこなったのはここオダワーランが最初ではあるが、ホバート王国の正式な記録に残ってないような戦いも含めれば、現時点でエーリカは連勝街道を突き進んでいたのである。ここまでエーリカ率いる血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団は負けなしであった。


 オダワーランの攻防戦が終わってから2週間、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団はオダワーランに赴任したままであった。弟王派の敵兵を追い払った後、念のため、1週間ほど緊張を解かなかったオダワーランであった。だが、1週間を過ぎたころにはもうオダワーランが今すぐに危機に陥るようなことにはならない情勢になってきていることが判明する。


 そのひとつとして、兄王が各地に派遣した将軍やその将軍に連れられた募兵した者たちがその地方で勝ちを少しづつ拾い始めたのだ。兄王がやっていることはあまり褒められたことではなかったが、オダワーラン攻略失敗が大きな痛手となり、弟王もまた各地に戦力をばらまく他なくなってしまったという結果になっていく。


 それほどにもオダワーラン防衛戦での勝利は大きかったと言えよう。この地を守るイザーク・デンタール将軍は兄王に一筆書いて送っておこうとエーリカに告げる。そこから1週間、手持ちぶたさであった血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団であるが、ようやく新王都に戻ってくるようにとの要請が兄王直々に命令が下されることになった。


「ありがとうございました、イザーク将軍!」


「ははは、礼を言うのはこちらのほうだよ、エーリカ殿。あれほどに見事な反転攻勢なぞ、生まれてこの方、見たことがなかった。これからはライバルとして、そなたと競い合うことになりそうだ」


「そんな……。イザーク将軍の防衛手腕には頭が下がる一方でした。イザーク将軍が兵2000であれほどに粘ってくれたからこそ、こちらもアレが出来ただけです」


「要らぬ謙遜は損をする時代だぞ。さあ、兄王様がお待ちだ。自分はもっと出世したいのだ。兄王様にハッパを掛けてきたまえっ!」


 イザーク将軍は快く、エーリカたちを見送るのであった。もちろん、イザーク将軍としてはただただ心から純粋にエーリカを手放しに褒めちぎった分けでは無い。イザーク将軍が目標を叶えるためにはエーリカに働いてもらわなければ困るという事情があった。称賛半分、自分の野望が半分といったところである。


「イザーク。本当はエーリカ殿を配下に置きたかったのでは?」


 そう言うのはイザークの副官であり良き理解者でもあるライラ・デンタールであった。しかし、彼女の言を否定するかのようにイザークは首を横に振る。


「あやつは自分の配下で収まる器に思うか? 我が副官よ」


「言われてみればそうデスね。乱世が深まれば深まるほどその羽ばたきを大きくするわしのように感じられました。乱世、嵐世だからこそ大空に舞うわしだと思うのデス」


「そういうこった。自分はこの国で出来る限りの出世を果たそうと思っているが、あのお嬢ちゃんはそれで収まる気がどうしても考えられぬ。それなら可愛い娘には旅をさせろと思うわけだっ!」


「少し妬けてしまうのデス。これは浮気だと断じます。今夜はイザークに馬乗りしてやるのデス」


 こりゃ足腰立たなくなるまで搾り取られちまうなと思わずにはいられないイザーク将軍であった。しかしながら、いくら乱世と言えども子がそろそろ欲しいと思ってしまうイザークである。たっぷりと搾り取られましょうかと思い、今から夜が待ち遠しいとにやけ顔になる。だが、そんなイザークに対して、今回の勝利とそれに伴う損害をまとめた書類の束の角で彼の頭を小突きまくるライラであった。


 そんな仲睦まじい夫婦のことはさておき、エーリカたちは一路、新王都であるシンプに向かって、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団を行軍させた。このオダワーラン攻防戦において、死者こそ出さなかったものの、多少の傷を負った者はけっこうな数に上っていた。


 その傷ついた身体を癒すためにもエーリカはまっすぐ新王都には戻らずに途中にあるスンプに立ち寄るのであった。そこにある温泉宿を多数貸し切り状態にして、エーリカ率いる血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団はひと時の安息を得る。


「はぁぁぁ……、生き返るぅぅぅ」


「一万人の軍勢を3千にも満たない兵で守り切るって、実際にやってみるととことん疲れましたわ」


 攻城戦をするなら相手の3倍以上の兵をもってしておこなえとはよく言われたものだ。実際のところ3倍でも足りぬ場合が多かったりもするのだが……。それはさておき、エーリカたちはよくやったと言える軍功をあげた。弟王の企てを防ぎ、さらには手痛いダメージを与えたのだ。ここまでの軍功をあげれば、さすがに田舎者と言えども、王への謁見を王自体が拒めるはずがない。


 心地よい疲労感を温かい湯に溶かしていくエーリカたちであった。しかしながら、温泉の湯にそのまま溶け込んでいきそうなエーリカはその湯にメロンが浮いていることに気づくことになる。


「あれ? セツラお姉ちゃん、また大きくなった?」


「ちょ、ちょ、ちょっと!? エーリカさん、どこを見てそういう表現を???」


「もちろん、セツラお姉ちゃんのおっぱいを見ての正直な感想。いいなー。その半分くらい、あたしの胸にもついてほしいんだけどぉ」


「わたくしだって、大きくしたいと思ってそうしてるわけではありませんわよっ!」


 エーリカとセツラは温泉ならではの女子トークを繰り広げていた。周りにいる血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団に所属する女性兵士たちもその会話の輪に混ざっていく。どうすればおっぱいが大きくなるのか、その秘訣をセツラに聞きまくる女子たちであった。


「うーん。いいよな、こういう隣の湯から女子たちがおっぱい比べでキャーキャー言ってる声が聞こえてくるのって……」


「こういうのって揉めばでかくなるっていう話。女子たちに言ったらセクハラだーーー! で訴えられますよね」


「も、揉むと大きくなるのでござるか、クロウリー様! 拙者、手伝おうか!? と言っても良いのでござるか!?」


「やめておけ、ブルース。クロウリー様が言うように立派なセクハラだ。それが彼女や嫁さんに対してでも今の時代、セクハラだと訴えれるらしい」


「本当でござるか……、アベル。拙者、ちょっとかなしい気持ちになってきたでござる……」


 湯舟にぶくぶくと沈んでいくアホは放っておけとばかりに温泉の湯を楽しむタケルとクロウリー、そしてアベルであった。そんな彼らをよそにミンミンとロビンは洗い場で一生懸命、身体を隅々までタオルでゴシゴシと洗っていた。そんなミンミンが満足したのか湯で身体を洗い流した後、湯舟の方にやってくる。


「うおおおお。益荒男マスラオ様の登場だっ。こりゃでけぇ……」


「ちょっとまじまじと見るのをやめてくれだべさ。さすがのおいらでも恥ずかしくなってしまうだべ」


 ミンミンが前も隠さずに湯舟に入ろうとしたところ、そのミンミンの息子と眼があったのがタケルであった。タケルは男のシンボルをまじまじと見る趣味は持ち合わせていないのだが、ミンミンの雄大さに感嘆の声をあげざるをえなくなってしまったのだ。


 その時であった。落ち着きを取り戻し始めた女湯のほうから男湯のほうへと声が飛び込んでくる。


「ねえ、そっちもサイズの話してるの? 誰が1番?」


「先生の見立てではミンミン殿がキングです。んで騎士クラスがタケルくんとビロンくんで、従卒がブルースくん。一兵卒がアベルくんですかね」


「なんとなくミンミンがキングだって察していたけど、タケルお兄ちゃんが騎士クラスなのは意外だわー。本当は盛ってるんじゃないのー?」


「うるせー! てかクロウリー。いつの間にそんなサイズ比べをしてたんだ!?」


「肝っ玉の大きさとおちんこさんのサイズは比例するんですよ。先生は軍師です。皆様のそこを調べておかなければ、隊の配置の時に困るじゃないですか」


「んじゃ、女子の場合はどうなるわけー?」


「……」


「……」


「……」


「あんたたち温泉からあがったあと、楽しみにしてないさよっ! あたし直々に風呂上りのタイ式マッサージをしてあげるからね!!」