「さぁて……」
井後と出会った護は、次の日にて。
「ここが、俺の働いているところだ」
早速、井後の案内によってエレマ部隊本部基地へと連れられたのだが。
「(……なんだここ、人なんてどこにも……)」
ドーム型の基地を奥に構え、その手前には幾つにも建てられた仮設テントがあったがしかし、見渡す護から見える景色には、仮設テントの数に反して人の姿はほとんど見られず。基地周辺は閑古鳥が鳴いている状態だった。
「んじゃ、早速……」
こんな人も誰もいない場所で、一体自分は何をしろと、そう言いたげな表情で立ち尽くす護に対して。
「おらっ!」
「イッタッ!?」
井後は突然、護の背中を強く叩けば。
「あのテントの中入って、検査受けてこいっ」
入隊希望者の身体検査が行われている仮設テントのほうへ行くようにと促す。
「てめぇいきなりっ!」
いきなり叩かれたことに腹を立て、思わず井後に噛みつこうとした護。
「おっと。ここでは暴れるんじゃねぇぞ? 周りには警備員もいる。最悪、武力行使で無理やり抑え込むこともあるからな」
だが、すぐに井後は周りを見ながら護へ忠告をし、大人しく指示に従うよう命令する。
「…………っち」
「そうだ、その調子。じゃ、俺は一足先に基地の中で待っているから。また、後でな」
そうして、護の反応を見た井後は満足そうに大きく頷くと、そのまま彼を残して、足早に奥のドームへと向かっていくのだった。
「……総隊長」
「……ん? おぉ、荒川か」
基地へと戻っていった井後。そのロビー内で彼を待っていたのは、総隊長秘書の荒川で。
「先ほど、外で話されていた青年は?」
荒川は井後の姿を見かけた途端、駆け足で井後の下へと近寄れば、真っ先に井後へ護のことを尋ねると。
「あぁ、あいつのことか」
怪訝な顔をしながら、護について訊いてくる荒川に対し。
「たまたま夜道でばったり会ってな。そこで喧嘩して俺が勝ったから、エレマ部隊調査員にならないかって、そのまま無理やりここまで連れてきた」
誤魔化すことも、包み隠すこともせず。笑いながら、昨晩起こったことを有りのまま正直に答えると。
「……はい?」
そんな井後に、荒川は素っ頓狂な返事をしながら、訊き返すような仕草を見せれば。
「何やっているんですか! そんな勝手なこと。だから今朝、予備の絆創膏やら湿布やら無いかと連絡してきたのですか?」
井後の顔のあちこちに薄っすらと浮かぶ青あざを見て、呆れた様子で井後を叱責する。
「まぁまぁ、そこまで大事には至らなかったわけだし……」
井後はまた、荒川に向かって笑いながら誤魔化しては。
「人も全然足りてないんだ。こうやって出会ったのも何かの縁だと思って。参加させるだけさせてみようじゃないか」
なるべく荒川に納得して貰えるよう、それらしい理由を並べていき。
「……はぁ。くれぐれも、他の職員に見られて心配される前に、早く自室で治療を済ませてください」
「悪いな」
井後の話を聞いていた荒川は、一つため息を吐けば、それ以上に追及することはなく。顔に出来た青あざを隠すようにと、持っていたハンカチを井後に渡して、踵を返し仕事場へと戻っていく。
「(……念のため、あいつの出自を調べておくか)」
「『-岩上護さま。ロビーでお待ちの、岩上護さま。お待たせいたしました。これより、エレマ体の適性検査を行います。近くの係員の指示に従って、検査場まで起こしください-』」
無事に身体検査を終えて、仮設テントから基地内ロビーへと移動していた護。
用意された椅子の上で胡坐をかき、長い時間待たされていたことにイライラしていたものの、井後の指示には従い、周りの人間と揉め事を起こさず、自分の順番が来るのを待っていたところ。
「お待たせいたしました、岩上護さま。どうぞ、こちらへ」
アナウンスの声が止むと同時、護のもとへと係員がやってくる。
「…………エレマ体の装着方法といたしましては、コアを起動することで……」
「…………」
係員によって別室へと案内された護は、至極退屈そうな表情でガイダンスを受けた後。
「それでは、岩上護さま。これより、エレマ体適性検査を行います。先ほどお渡しいたしましたコアを持っていただきまして、【
今度は辺り一面タイル上に覆われた空間へと案内され、白衣を纏う研究者によって差し出された、アタッシュケースの中身を覗く。
そうして。
「…………”
手に持つ宝玉を静かに見つめて、エレマ体を起動させると。
着用される透明色のエレマ体へ向けて、四種のマナがいっせいに注がれば、彼を彩るマナの色は、小麦色となり。
「こ……これは……!」
だが、神々しく煌きに満ち溢れるそのエレマ体から得られる数値に、研究者たちは驚きの声を上げると。
「おめでとうございます」
フロアの中心でじっと佇む彼に、祝いの言葉を手向ける。
「岩上護さま」
歓喜の渦に湧く研究者たちに囲まれる彼は。
「土のマナとの適性率クリア。さらには」
そ
その日から。
「盾士タイプの歴代最高クラスとなります」
四将としての待遇を受けることとなるのだった。