「こんなにおいしいものが、存在するんだね」
「お前どんだけ好きなんだよ、『存在』」
「『存在』、大事です……!」
「なんだよ
「ウツロさんは、いい人です……!」
昼食もすっかり終盤。
食卓を
テーブルの上には、あとは洗うだけとなった食器の山ができあがっている。
「ふう……」
ウツロは満足だった、心の底から。
うまい飯と、最初こそぎこちなかったが、後半はそれなりに打ち解けて、会話を楽しむことができた。
それだけに、あんな態度を取ってしまった自分が恥ずかしかった。
「人間」に対する
しかしそれが、いかに
こんなにいい人たちじゃないか。
「人間」――
それがそれがどういうことかは、まだわからない。
でも、この人たちといると、気持ちが安らぐ。
コミュニケーション、というのか。
ひとりで
きっと俺の見ていた世界は、あまりにもせますぎたんだ。
彼はそう考えた。
「ごちそうさま。うまかったよ、柾樹」
「お気に
「さっきはごめん、あんな態度を取ってしまって……」
「気にすんなよ、過ぎたことだろ? いらねえことは考えんなって。うまい飯でハッピーになって、それでいいじゃねえか」
「あ……」
なんだろう、この感覚は……
前にも感じたことのあるような……
そうだ、アクタだ。
アクタはいつも、こんなふうに俺を気づかってくれていた。
南柾樹、この男もそうなのか?
だから俺は、こいつにアクタを重ねたのか?
いや、それなら、真田さんや虎太郎くんだって……
そうか、もしかすると、これが「人間」の本質なのか?
俺は「人間」を、おしなべて悪い存在だとばかり思っていたけれど、それは思いこみに過ぎなかったのかもしれない。
うーん、難しい……
まだ全然わからない。
なんて難しいんだ、「人間」は……
「おーい」
「え?」
「まーた難しいこと、考えてんだろ?」
まだ出会ったばかりではあるけれど、ウツロの
「パッパラパーになっちまえよ」
こういった
彼は軽いノリで、ウツロをいなしてみせた。
「パッパラパーか、うーん……」
やはりアクタと似ている、本質的なところが。
俺は深く考えているようで、実は
うーむ、反省しなければ……
「ウツロさんがパッパラパーなら、僕はさしずめ、『デビルズ・クソムーチョ』でしょうか?」
「なんだよそれ? わけわかんねーよ」
「いくらなんでも
「『ヒゲヒゲの実』を、食べたのです」
「そんな実あんのかよ!」
「役に立たなそうな能力だね!」
「ははは」
「ははは、じゃねーよ!」
真田虎太郎が
ウツロはこの
作っているようでいて、自然にやっているようでもある。
コミュニケーションか……
俺は難しく考えすぎているのだろうか?
アクタやみんなが言うように、物事の本質とはもっと、単純なのかもしれない。
だが、単純だからこそ、逆に俺には難しい。
ウツロは例により、考えを
「ちょっとまとめなきゃいけない資料があるから、医務室にいるね」
「うぃー」
食事を
食器くらい自分で片づけていけばいいのに……
そうだ、片づけだ。
こんなにおいしいものをいただいたんだ。
せめて片づけくらい、手伝いたい。
「片づけを、手伝わせてくれないかな……?」
「いいって、ウツロくん。あなたはお客さんなんだから、先に部屋へ戻って、お昼寝でもしてるといいよ」
「でも……」
「
真田龍子と南柾樹が自分に気をつかってくれているのは、じゅうぶんに察する。
ウツロは食い下がったら
「そう、か……わかった。お言葉に、甘えさせてもらうよ」
食堂を去る前に、礼のひとつくらいは言っておきたい。
その程度なら
「柾樹」
「ん?」
「
「……」
これがいまのウツロにできる、最大限の
不器用かもしれないけれど、彼は彼なりに、感謝を表明したつもりだった。
「そう言ってくれるとうれしいぜ、
「――」
深く
おぼつかない
彼は成長したがっている。
もちろん、精神的に――
「よっぽど、柾樹の料理がおいしかったんだね」
「ほんと、クラシックな野郎だぜ」
遠ざかるウツロの背中を見つめながら、南柾樹の顔は
*
食堂を出たウツロは、まっさきに、星川雅のことを思い浮かべた。
彼女だけ、彼女だけが、他の三人とは違う気がする。
何かとてつもない、
奪われたままの
ウツロはそう考え、彼女が
(『第30話