「さ、ウツロくん。ここがあなたの『お城』だよ」
「『お城』か。一国一城の
しかしそんな彼を尻目に、彼女はきびきびと勢いよく、そのドアを開け放った。
「うお」
畳張りの和室、広さは十二帖、角部屋。
ここまでは真田虎太郎の部屋と同じ条件だ。
しかし彼の部屋が北向きだったのに対し、向かいあうこの部屋は南向きだから、立地としては最高だ。
その証拠に、南側のベランダの窓からは、
また、半分開け放たれた窓から下がるレースのカーテンは、そよ風にひらひらと舞い遊んでいた。
「ちょっと外の風に当たってみない?」
「うん、そうだね」
ベランダは簡単なウッドデッキになっていた。
ウツロはついわくわくしてしまい、はしゃぎたくなる気持ちを抑えて前に出た。
「わあ……」
街、街が見える。
これが夢にまで見た外の世界、すなわち人間の世界なのか……
「すごい……これが、街なのか……」
快晴の空の下、視線の奥には、くっきりとした水平線が横たわっている。
目の良いウツロには、海の波がのんびり揺れる様子や、その上を行き交う
「あれが、海なのか……なんて、きれいなんだろう……」
視界に入る光景、そのすべてが彼には新鮮だった。
なんという広さ、大きさ、この解放感。
そのまなこがにじんでくるのに、時間など要らなかった。
「これが、世界……なのか、なんて美しい……」
「ウツロくん?」
「あ、ごめん、真田さん。あんまりきれいで……」
「大丈夫? いったん中へ戻ろうか?」
涙ぐんでいるウツロを横目にした真田龍子は、もしかして彼はまた苦しんでいるのではないかと心配になり、おそるおそる声をかけた。
「いや、いいんだ……つい、感動しちゃって。もう少しだけ、見ていてもいいかな?」
「……うん、全然大丈夫だから。好きなだけながめてごらんよ」
「ありがとう、真田さん」
彼女はおもんぱかってあまりあった。
この少年の
真田龍子は隣で涙を流すウツロを、たかがベランダから外の景色をながめるというありふれた行為に、これほどの感慨にふける純真無垢な少年の横顔に、彼の全人生を投影し、それを如実に物語る姿に、自分自身も落涙を禁じえなかった。
ウツロもまた、思索をすることが止まらなかった。
はじめて目撃した外の世界。
この光景を前にして、俺のつまらない考えなど、こんな存在など、どんなにちっぽけなものであるのか?
アクタにも見せてやりたい、可能であるのならば、いますぐにでも教えてやりたい。
世界とは、こんなにも美しいものなのだと……
二人はしばらくの間、ベランダの
(『第23話 伝家の宝刀』へ続く)