「自己否定ね」
「えっ?」
医務室を出た
発せられた「自己否定」という単語に、いったい何のことかと反応する。
「きっと何か、トラウマを抱えているのね。あまりにも強すぎるトラウマを。そこから発生する強烈な自己否定。彼の場合、自分は人間ではない、虫か何かのような、おぞましい存在だという強迫観念に取りつかれているのよ」
「……なんて、こと……」
「龍子、ここを案内する必要があるから、悪いけれど――」
「雅は?」
「『上』に報告だね。それに、わたしは嫌われてるから。龍子と違って、ね?」
「あっ……」
手の甲で星川雅は、真田龍子を軽くつついた。
「じゃ、お願いね」
その手を翻して、足早にその場を去っていく。
残された真田龍子は立ちつくした。
ウツロくん、どうしてこんなことに……
あんな、やさしい子が……
(『第19話 ラブコメディ』へ続く)