夢の中で、進は今となっては詳細を忘れ始めてしまった故郷に立っていた。
あぁ、と進は感慨深そうにその足を進める。
白昼夢のようなそれは、しかし現実味を帯びていた。
記憶の追体験と言った方が無難なのかもしれない。
そんな中で、進は懐かしい顔を見つける。
「____見広」
建物と建物の狭間。
裏路地で見つけた親友の名前を呼ぶ。
結局、今の進が最終的に呼んでしまう名前はこの少年のものだったか。
呼ばれたのが分かったのかその少年はゆっくりと振り返った。
「進、戻ってきたいか? それとも俺を追ってきたいか?」
第一声でそう問われて、夢とは分かりながらも進は目を見開いた。
しばらく下を向いて自分の思いの全てを噛み締めるようにした後、彼に笑い返した。
「元の世界に戻りたくはないけど、お前の方には行きたいなぁ」
それは心からの本心だったのだろう。
親友というのは引き裂いても引き裂ききれない存在なのだから。
見広と呼ばれた少年が、進の答えを聞いて彼に手を差し出した。
「じゃぁ行こうぜ。俺と一緒に」
言われて、進の手がピクリと振動する。
が、しかしそれ以上その手が動くことは決してなかった。
「?」
「……行かないよ。そっちに行きたい、お前と一緒にずっと話していたい。けど、そっちには行かない」
どうして、と口にされずともわかった。
お互いの言いたいことはお互いにもう理解しているのだろうけども、それでも口にしないといけない気がして。
「こっちの世界で、俺と絡んでくれる人間はたくさんいるんだ。もう、俺とお前と俺たちの幼馴染四人だけの物語は終わってしまったんだよ。だから____」
「行かない、じゃなくてそれはもう行きたくないという感情に変わった。ってことでOK?」
見広が進におどけた様子でそう聞く。
「……ったく、お前は軽いんだよ。もっとシンミリした感じをだなぁ」
「いらないだろ。俺とお前の間にそんなものはいらないだろ」
見広と進。
二人の少年は笑い合った。
笑い合ってそして、同時に回れ右をした。
音の残響はなかった。
振り返ってみれば、親友がゆっくりゆっくりと歩いていく。
「見広ーー!! じゃぁなーー!! また、いつか。また、会う時があったら!」
その時はそれぞれの世界を語り合おうと。
そうして、元の世界に進は決別を告げた。
この瞬間から、言野原進は、《転移者》ではなく《その世界で生きる者》へ存在を変えた。
ここから、物語は始まる____。