一通り1階は見終わった。
人は一人も見つかっていない。
「ん? 小野田はどうした?」
カレンさんが竹チームを見て言う。
「ん? どこ行った? お前ら見てないのか?」
竹の人の声に、誰も知らないと返事する。
確かに一人いない。
「トイレでも行ったか? 先走って上行ったか?」
「いえ、さっきまで後ろにいたはずなんですが⋯」
「何やってんだ」「迷子?」と周囲から声が上がる。
もちろん私たちも見ていない。
「仕方ない。俺たちは一旦、小野田を連れてから行く。カレンたちは先に上へ行ってくれ」
「お前たちだけで大丈夫か?」
「散々見ただろ、ここには何もいない」
「まぁ、そうだな」
ここで竹チーム以外で2階へと行く事になった。
エスカレーターへと、チーム順に乗っていく。
下を見ると、「お前たちはあっちを探してくれ」と竹の人が指示を出している。
小野田さんはどこに⋯?
2階へ着くと、上に大きく【地域課】と書いてあった。
ってことは、ここは普段交番や見回りなど、外で見る一般的な警察官が所属するところ、おそらくニイナも同じ。
「ねぇ黒夢、ここも違うの?」
ノノがこっちを向く。
「⋯違う。私がいた時、こんなんじゃなかった。もっと個人まりしてるというか⋯こんな区切られた区間は無かった。ちなみに、私がいつも座ってたのはあの辺りで」
「っ!?」
『緊急地震速報です、強い揺れに警戒してください。緊急地震速報です、強い揺れに警戒してください』
また全員のL.S.から【緊急地震速報】が一斉に鳴った。
すぐにしゃがむ姿勢を取る。
「なんなんだ、さっきからこの揺れは!?」
カレンさんの指示で無事を確認し合う。
幸い、誰もケガはしていない。
それにしても緊急地震速報のあの音、何回聞いても心臓に悪い⋯
揺れたせいで、物が常に散乱している。
棚の書類や机の物など、一気に散らばっている。
カレンさんを見ると、L.S.で誰かと通話を始めていた。
「おい、揺れただろ。そっちは無事か?」
「ん? こっちは揺れてないが?」
「⋯え?」
「揺れたのか? またさっきみたいに」
「⋯」
「おい、カレン?」
「⋯そういう事だ。それで、小野田は見つかったか?」
「それがどこ探してもいない。アイツは一体どこ行ったんだ」
すぐ後ろから竹チームが上って来た。
すると、
「っ!!」
『緊急地震速報です、強い揺れに警戒してください。緊急地震速報です、強い揺れに警戒してください』
さらにまた全員のL.S.から【緊急地震速報】が鳴り響く。
すぐに全員がしゃがむ。
「くそ! ふざけやがってッ!!」
竹の人が声を荒げる。
厄介すぎるこの地震。
たぶん次、3階に上ったらまた起こる。
これは"何が地震を起こしている"の?
階層それぞれに独立して地震を起こすなんて、あまりに不自然すぎる。
「よし、それでは2階の探索をする。また同じように分かれ」
「待ってください代表! 小野田いました!」
一人の男性がふらふらと近付いてきた。
「ん? おい小野田、なに勝手に2階に行ってる! 一人だと危険だろ!」
カレンさんが彼の肩に手を置いた瞬間、
― 彼の頭が落ちた
"小野田さん?"の首からは"赤く透明な何か"が伸び始めた。
「⋯カレン下がれッ!! そいつは小野田じゃないッ!!」
「ど、どうして⋯」
『ふけあじぇじゃいえいへじゃうおいえ? おああてかまじぇかけならくられ?』
「早く下がれッ!! ⋯ええい、くそっ!!」
竹の人が容赦なく"小野田さん?"を切り刻み、吹き飛ばした。
カレンさんの手はまだ震えている。
「す、すまない⋯」
「あんなのは小野田ではない。動揺するな」
「⋯そうだな、悪かった」
今何が起きたか私も分かっていない。
他の人もまだ唖然としている。
アレが喋っている言葉も、意味不明だった。
「ここからは邪魔がいる、という事か」
松の人が小さく口を開いた。
「各員、油断するなよ! 引き続き"本物の小野田"も探すぞ!」
一斉に響く「は!」という声。
カレンさんも気合いを入れ直している。
「⋯⋯よし」
「大丈夫ですか、代表。あれは私でもあーなります⋯」
「ノノも気を付けろ、また来るかもしれない」
「は!」
さっきのは本当になんだったの?
"小野田さん?"が飛んだ方向を見ると⋯
― 赤い影のような跡だけが残っていた