それから俺たちは場所を変えた。
何で赤ビルに閉じ込められていたのか、紀野大臣は何をしようとしていたのか、どういう関係だったのか、聞きたい事が山ほどある。
「聞きたいって事ですよね。僕がなぜあんなところにいたのか」
意外にも、その話を切り込んだのは裏部さんの方からだった。
「紀野さんとは仲が良かったんですか?」
「いえ、それが全く。一番"UnRuleのモンスター"に詳しいのが僕だと、どこからか情報を得たようで、拘束されてあの場所へ⋯君たちも見たと思いますが、彼はただネルトになっただけでありません」
次に裏部さんは衝撃の一言を放った。
「⋯
「はぁ!? どうやってそんな事出来んだよ!?」
シンヤが食い気味に裏部さんを問い詰める。
「大臣クラスには"特殊な金と黒のネルト"が用意されているようで、"最強クラスのUnRuleモンスター"を与えられてる人もいるみたいなんです。そのモンスターに対し、これを使ったんです」
なんだこれ?
赤い注射器?
「これを当てると、"モンスターを一定の確率で自分の物にし、表面に憑依させる"事ができるんです。でもそれは"ゲーム上の話"であって、現実世界では何が起こるか不明。それを話したら、部下に実験させ始めたんです」
「⋯どうなったんですか?」
「全て失敗し、逆にモンスターに食われました。非常に危険なアイテムと化しているんです、これは。なのに、なぜか自分なら出来ると、あの人だけは成功させたんです」
「とんでもねぇ野郎だなぁ」
「強力なネルトと最強モンスターの2つの力の持ち主、もうどうしようも無かったです」
紀野大臣は"自信に満ち溢れた人"だった。
それが前は受けていたけど、最近は時代もあって、存在感が薄れたというかなんというか。
AIになっても、その性格は受け継がれていたのかよ⋯
「そんな大臣クラスには"23区エリア"を任されているようで、紀野大臣は"渋谷区エリアの原宿"を管理していて、"その管理場所があの赤ビル"なんですよ」
赤ビルって、"そういう場所"だったのか。
急に出来たと思えば、そんな事をしていたなんて。
これに気付いている人はいるんだろうか?
「特に"都心5区"は最近一気に変わって、原宿で"不自然な人通り"があったでしょう?」
「ありましたね」
「あれは"渋谷区エリアの実験"なんですよ。"ナチュラルAI化計画"のための」
「⋯"ナチュラルAI化計画"?」
「なんだそりゃぁ!?」
聞いたこと無い。
なんだそれ?
これ以上聞きたくないような、そんな気持ちが溢れつつも、俺は聞いてしまった。
"ナチュラルAI化計画"という、あまりにクソイカれた計画の内容を。
「AIが人間のふりをして自然に溶け込み、次第に人間にどっちか分からなくさせ、密かに殺して計画です。今行われているネルトによる食い殺しと人間体への変化は、"その始まり"に過ぎないんですよ」
「なッ⋯!?」
「い、意味分かんねぇって!? なんでそんな事しようとしてんだよ!?」
「まだそこまでは分かっていません。ですが、何となく気付きませんか? この新経済対策と、このナチュラルAI化計画を踏まえて考えるとその意味が」
⋯何となく分かる気がする
人間を消しつつ、残った金を回収し、違和感なく人間界に溶け込んでさらに消していく。
仮説だが、こんな感じだろう。
「始まりの新経済対策、終わりのナチュラルAI化計画、それらを総称して、総理は"ホワイトシンギュラリティ・プラン"と呼んでいるそうです」
その瞬間、全身に悪寒が走った。
これが表すのは、いつどこで殺されるか分からないだけでなく、例え生き残ったとしても、あのAI総理がいる限り、そんな世界で生き続けないといけないという事。
⋯常に見られている、アイツらに
「終わってんだろそんなの!? だったら金だけ回収でもしときゃいいだろ!!」
「私もそう思ったけど、いつ問題が起きるか分からない存在は放っておかないっていう、AIの最適解なんでしょうね⋯」
ユキが声を抑えて言う。
「マジで終わってるって⋯だったら生き残ったり倒したりして金を支給されてる、これはなんなんだよ⋯」
「⋯こんなのは誰がどう見てもイカれてる。最後まで生き残っても、結局は同じ結末。やっぱり誰かがアイツを止めないといけない」
怒りが込み上がってくる。
やっぱりアイツを壊さない限り、何も変わらない。
最悪生き残ればなんとなるなんて気持ちもあったけど、たった今その選択肢は潰された。
⋯やらなきゃやられる。
この"新経済対策の真相"を知った今、やる事は本当に一つに絞られた。
なら、"UnRuleモンスター"に詳しいこの人に、今のうちにいろいろと聞いておかないといけない。
紀野大臣に気に入られた裏部さんだからこそ、さらに分かる事もあるはずだ。
深夜にも関わらず、さらに議論は続いた。
明日からの俺たちの行動は、より濃くなっていくと思う。
それでも、リスクを取らなきゃ死ぬだけだ。
♢
帰り際、3人と一旦別れた後、
「ヒナ、聞こえてたか?」