このUnRuleはそもそも前提が狂っている。
"何か"によってリアル化されてしまった事で、実体への負担があまりに大きすぎる。
本当はこんな事なく、作られたはずだ。
ズノウも身体をここまで酷使せず、ちょっとの動きで実現されていたと思う。
誰でも出来るよう自動調整され、アシストも細かく効き、こんな事にはならなかっただろう。
それが全て不明瞭になり、その"不明瞭なモノ"で対応しなければならず、いくらAR慣れしていても限界がある。
特にヤツと対峙して感じた、あの天魔神よりも強いヤツにこれ以上はもう⋯
俺には⋯
ふらつき、倒れそうになった時、
「⋯うッ!!」
またあの頭痛が始まった。
いい加減にしろ。
どこまで苦しめる?
歪んだ視界の先に、また"白いアイツ"が立っていた。
右手には"あの銃剣"。
「⋯いい加減にしろ⋯誰なんだお前ッ!!」
ヤツがこっちを見る。
その瞬間、銃口が俺へと向けられた。
「⋯俺を⋯撃つのか⋯?」
ヤツは喋らない。
静観だけを続ける。
「⋯ッ!!」
限界を貫き、七色蝶の銃口をヤツへと突き付ける。
二つの銃剣が呼応するように、お互いの羽根が激しく輝いた。
すると、ユキの笑った顔、ヒナの明るくなった顔、シンヤの嬉しそうな顔が、デジタルサイネージのように空中に浮かび上がって回った。
次第に、ユエさんの顔、"死んでしまったあの人の顔"まで。
色んな人の喜んでいる様子が、俺たちの周りを回り続ける。
「⋯ルイ⋯わたし⋯いっしょにいたい⋯いきて⋯いっしょに⋯いたいよ⋯」
最後にユキの声が響いた。
一緒にいたいって、生きて一緒にいたいって。
「ユキ⋯俺は⋯」
倦怠感や痛み、寒気や痺れが動きの邪魔をする。
どこまでも纏わりつく。
それでも、
「⋯ぐっ⋯」
引き金を強く握った。
「⋯お前もヤツも⋯超えるッ!!!」
同時だった。
俺とお前。
トリガーを引いたのは。
現実世界へ戻ると、俺の銃剣は粉々に割れていた。
なんで⋯俺の⋯
と思った時、ズノウが全て搔き消され、一つだけ"消えかかった虹の項目"が現れた。
〈
〈螟ァ陜カ縺九i陌夂┌髯占攜縺ク縺ョ譁ー逕〉
〈
〈螟ァ陜カ縺九i陌夂┌髯占攜縺ク縺ョ譁ー逕〉
〈
〈螟ァ陜カ縺九i陌夂┌髯占攜縺ク縺ョ譁ー逕〉
それは砂嵐を繰り返し、文字化けと交互に表示された。
まだ⋯やれる⋯?
コイツは⋯俺をまだ⋯
限界をとうに超えた俺の脳は、勝手に選び取っていた。
その瞬間、割れた銃剣から"新しい蝶の羽根"が生えた。
羽根は粉々になった銃剣を取り込むと、"0の形をした銃口"から姿を映し出していった。
銃剣腹部からは"カーテンのような光"が左右へ溢れ、羽根は輪郭以外が空間となって"∞のような形"へとなっていく。
これはあの"白いアイツ"が持っていたものと全く同じ物だった。
ズノウは"シンズノウ"へと上書きされ、新たに追加されていく。
俺はその中から1つを選んだ。
〈これは身体が耐え切れず、焼身する可能性があります。それでも使いますか?〉
もうここにはいられないかもしれない。
もうみんなと一緒にいられないかもしれない。
全てを覚悟した俺の脳は、〈はい〉を押した。
〈インフィニット・ネオシンギュラリティドライブ〉によって、人体損傷を無視した行動が始まった。
ヤツか俺が倒れるまで、無限に攻撃し続ける。
俺の銃剣は"不可解な点滅光"を左右から噴射し、外観をグリッチ状にしながら振り回された。
振り回すたび、"∞模様と0模様の粒子"を発する。
「死刑ノ邪魔ヲスルナァァァァッ!!!!!!」
ヤツも今までに見せていない"黒炎を纏った赤鋭刃"と、人間離れした速さで追い付こうとしてくる。
今まではまだ手加減していたのか、温存していた全てを放ってくる。
対抗しようと、全身に焼けるような痛みが駆ける。
死ぬほどの頭痛が「これ以上やればお前は死ぬ」と、訴え続けてくる。
なのに、何もかもを無視する俺の意志は、止まる事を選ばなかった。
手の感覚なんてとっくに無い。
あるのは"理不尽ヲ壊ス覚悟"。
この戦いは、ほんの少し俺の覚悟が上回っただけだと思う。
22撃目から付いてこれなくなったヤツは、"ある事"を囁きながら砂のように粉々になった。
確かに聞こえた、「ソウカ、オ前ハ総理ノ⋯」という声。
「⋯おいッ!!! 大丈夫か、ルイッ!!! おいッ!!!!」
「⋯」
「おい、ルイッ!!! おいッ!!!!」
シンヤの最後の声の後、全てが真っ暗になった。