刹那、俺と大臣の鋭利な刃がぶつかり、強烈な火花が舞った。
あまりの速さに、そう対応せざるを得なかった。
「オ前ハ付イテクルカ」
「⋯んぁぁぁッ!!」
叫び、どうにか押し返す。
さらに返してこようとするが、他3人による一斉攻撃によってそれは阻止された。
大臣は後ろへと大きく飛び、距離を取ろうとする。
⋯ここしかない!
ズノウの〈
両手持ちになった丸いイーリスから、溜め込まれた激しいスペクトラムが一気に射出された。
どこからどう見ても大臣の全身に直撃したそれは、大きな光爆を起こす。
三翼の天魔神の時、片腕を吹き飛ばすほどの威力だったんだ。
相当の致命傷をこれでくらわすことが出来た、そう感じていたのは俺だけじゃなかったと思う。
「なっ!?」
煙幕の中、飛んで来たのは"無傷のヤツ"だった。
黒い鱗纏ったヤツは、冷静な様子に変わりない。
どういうことだ!?
なんであんな平気な!?
考える隙など無いまま、ヤツが真っ先に捉えたのは、なんとユキだった。
一歩遅れた俺の行動は、ユキには届かなかった。
さっきまで片手のみだった"赤いクリスタル状の鋭刃"は、気が付けば両手に持たれており、それらによってユキは大きく後ろへと吹き飛んだ。
「ユキッ!!!」
声空しく、勢いのまま壁へと強く打ったユキは、頭部から流血し、ぐったりするように倒れた。
気にする暇など与えられず、次に狙われたのはヒナだった。
ヒナの強力な白い雨も光の槍も、全てが"障壁?"のようなもので弾かれ、一瞬で迫られる。
くそ⋯これじゃ間に合わないッ!!
⋯そんな限界、誰が決めた?
俺は⋯違うッ!!!
両足が焼き切れたかと思うほどの超反応を起こした俺の身体は、一瞬にしてヤツとの距離を詰めた。
「ナニ!?」
"七色の炎を纏った光刃"が現れ、蝶の羽根が燃え盛る。
大きく反った俺の上半身は、感覚が分からなくなるほどの速さで連撃を繰り出した。
〈
〈
だが、違和感があったのは1ループ目が終わった後だった。
なんとコイツは、この速さに追いつき、どこまでも防いできた。
2ループ目から最後までは、ヤツの身体に届いておらず、致命傷にもなっていない。
横から来る二人の追加攻撃さえも読んで対応され、ただ俺の疲労感だけが蓄積されていった。
「⋯はぁ⋯くっ⋯」
「危険ナ男ダ、失セロッ!!」
不意に鋭刃を投げられ、何とか気力を振り絞って避ける。
しかしそれは囮であって、本当の狙いは"彼女"だった。
「ッ!! ヒナぁぁぁッ!!!」
俺の隙を狙ったアイツは、シンヤとヒナの連携を掻い潜り、とうとうヒナに強烈な蹴りを入れた。
肝臓深くへと入ったそれは、「おえっ」という鈍い声と共に、ユキの近くへと飛ばされた。
彼女は激しく嘔吐し、切れた唇からだらだらと血を垂らしている。
「ごめん⋯なさい⋯」と力無き声が聞こえ、次第に動かなくなっていった。
「⋯ヒ⋯ナ⋯?」
俺の脳は、突然シャットダウンを始めた。
視界が消えていく。
⋯俺は何をしてきた?
連れて行くんじゃなかったのか?
ユエさんの声が微か聞こえる。
小さな視界には、二人に応急措置をしている姿が映る。
「⋯なにしてやがるッ!! お前ぇぇぇッ!!!」
シンヤがヤツへと反撃するが、何も通っていない。
あの赤い銃はELの武器じゃない。
あんなものでは、通用するわけがない。
それでも持ち前の身体能力で、血を吐いて倒れても、何度も立ち向かっている。
諦めないシンヤを前に、俺は何をしてきた?
「なにしてんだルイッ!! 突っ立ってんじゃねえッ!! やるんじゃなかったのかよッ!!!」
シンヤの必死な声が聞こえる。
でも⋯俺は⋯失敗した。
体力限界のズノウを使った。
身体がもう言う事を聞かない。
全身に尋常じゃないほどの倦怠感と痛み、寒気と痺れまで起きていた。