第二部☆金星のリラ
第四章☆ナノマシン
「大丈夫?うなされてたけど」
ミリーが目を開くとパイソンが心配そうにのぞきこんでいた。
「ええ、大丈夫。ちょっと夢見が悪かっただけ」
「皆、朝食を自由に食べてるから、あなたも調子が良くなったら食堂へ来てね」
「ありがとう、パイソン」
パイソンが立ち去ると、青白い顔を両手でおおって、ミリーは頭の中を整理した。
メイが潜入している金星人の革命家たちの集まりに、火星人の男の姿があった。火星ではかなりの地位にいるが、表立っては知られていない。しかし、ミリーには面識があったのだ。
「お父様のさしがねだわ。きっと何か企てがある」
ミリーは爪を噛んだ。
『もう少し情報が欲しいわ。でもくれぐれも慎重にね』
『了解』
メイを危険に晒す訳にはいかない。しかし頼れるのは彼女だけだ。
「ナノマシンが欲しいわ。あれはどうすれば手に入るかしら?」
ミリーはロカワ氏が以前彼女にもったいぶって見せていた兵器のことを思った。
生化学兵器で、水に潜んで生物の体内に入り、脳へ移動する。
専用の器機で操作すれば、その生物を意のままに操れる。
一定時間経過すると体外に排出されて、環境に還元する無害な兵器だった。
『メイ、メイ!あなたもナノマシンが入手できないかあたってみて』
『はい。ミリー・グリーン』
イヤリングがチカチカ光った。
「ミリー、具合はどうだい?」
部屋にリラシナが顔を出した。ミリーは咄嗟にメイとの交信を絶った。
その後わかったのは、金星人の攻撃挺団どうしが火星付近で味方を攻撃する筋書きができているということだった。
火星の王が送り込んだ間者の手筈通りにことが進めば、進路の交錯した金星側の同士討ちにより戦力が低下したところを見計らって火星側が攻撃してくる。
このままでは火星の植民地としての金星が独立するのは難しくなる。
「今、金星を独立させなければ再びチャンスがめぐってくる頃には私はいないだろう」
ミリーはそう思った。
その日。ミリーが知らない頃にリラシナは貯水池の管理人の仕事に行った。
「・・・ナノマシンか」
数個単位ではない。おびただしい数のナノマシンが入った巨大な容器を機械で水に投入した。
この水は最終的な濾過が完了した後のまっさらな水だから、このままでは生活用水の中にナノマシンが入り込んで流されることになる。
「これが、僕の仕事だ」
彼の表情は物陰でよくわからなかった。