霊斬の問いに、千砂が即答した。
「お前もどうだ?」
霊斬は徳利を持ち出して、それを千砂に見せつける。
「一杯、いただこうかね」
千砂が苦笑して居住まいを正す。
「そう、硬くなるなよ」
霊斬が苦笑し、盃を二つ置く。それぞれに酒を注ぐと、徳利を置く。
盃を手に取った二人は、軽く持ち上げると、酒を呑み始めた。
入っていた酒を呑みほした霊斬とは対照的に、千砂は一口飲んで、盃から唇を離した。
「手首の状態はどうだい?」
千砂が尋ねる。
「だいぶいい」
「四柳さんの言いつけを守っているんだね」
「守るしかないだろ」
霊斬は苦笑する。
「いつもだったら突っぱねそうなのに」
千砂は笑いながら言う。
「今回は止血にかなりかかったんだぞ。無茶して死んだらなんにもならない」
「ようやく、あんたの危機感が働いたってところかね」
千砂は苦笑する。
「まあな」
霊斬もつられて苦笑する。
「元也のその後だけどね」
「調べたのか」
「気が向いただけさ」
千砂は苦笑する。
酒を呑みながら、霊斬が尋ねた。
「どうだったんだ?」
「元也は医者にいったきり。しばらくは戻れないそうだよ」
「依頼人の思惑通りに、ことが運んだわけか」
霊斬は酒を呑む手を止めて、ぼそっと吐き捨てた。
「まだ依頼人、きていないだろ」
「ああ」
霊斬はうなずく。
「調べておいて損はなかったようで、よかったよ」
千砂が笑う。
「それにしても、依頼人、くるのが遅くないか?」
「確かに。こなければどうしようもないけどね」
二人は顔を見合わせて、苦笑する。
「暇だろうけれど、無茶するんじゃないよ」
いつの間にか、盃を空にした千砂が言う。
「いつの間に……おう」
霊斬がそう返すと、千砂は足早に店を出ていった。
それから七日後の夕方、依頼人が店を訪ねてきた。
「お待ちしておりました」
霊斬は店の戸を開け、依頼人であることを確認し、頭を下げる。
依頼人を招き入れ、奥の部屋へと案内する。
奥の部屋で正座をして向き合うと、依頼人が口を開いた。
「くるのが遅くなり、申しわけありません。騒ぎが落ち着いてからと思っていたら、予想以上の時がかかりました」
「いえ、美津元也ですが、肉体的、精神的苦痛を味わわせておきました。しばらくは医者にいったきりとのことです」
「それは、ようございました」
依頼人が笑みを見せる。
霊斬は苦笑する。
「これは、お礼の気持ちです」
依頼人は言いながら、小判十両を差し出した。
「ありがとうございます」
霊斬はそう言い、小判十両を受け取り、袖に仕舞った。
「またのお越しをお待ちしております」
霊斬は頭を下げた。