私達の元に飛んでくる兎は多分ヒロインちゃんで、リチャード殿下の胸に、飛び込むものだと見ていたが。その兎ちゃんは『お前じゃない!』と、殿下を蹴り飛ばし、私の胸にすぽっと収まった。
――え? 私は驚き、手を出して兎ちゃんが落ちないよう、ギュッと胸に抱きしめた。
「兎ちゃん、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。フカフカ……やっぱり女の子はいいな」
――女の子がいいな?
――私の胸で、兎ちゃんはご満悦になってる?
(あれれ? ヒロインって女の子だよね?)
兎ちゃんは、私の胸にスリスリしてきた。
「え、兎ちゃん⁉︎」
驚いていると隣が手が伸びて、兎ちゃんの頭をつかみ。
「おい、おまえ……俺を足蹴にしたな。このすけべ兎! それ以上ミタリア嬢の胸にスリスリしてみろ、俺がお前を食ってやる!」
と、リチャード殿下は、私の胸から兎ちゃんを強引に引き離した。
「ぎゃ、いたっ! ごめんなさい……僕を食べないでぇ〜」
「いや食う!」
リチャード殿下はギラリと牙を見せた。
兎ちゃんは捕まっていて逃げれず。
「あわわわっ……あ、ああ! 貴方様はこの国の第1王子リチャード殿下? ……となると、この可愛い人は婚約者のミタリア様? ごきげんよう、ミタリア様」
「フフ、ごきげんよう」
「なにが、ごきげんようだ! それに、お前はなんで学園の道端で獣化している?」
それもそう。
獣化は私達、獣人の中でも特別種となるため、人前で簡単になってはならない。舞踏会のとき大勢の貴族、学生の前でなってしまってけど、あれは緊急だからと陛下から許可された。
だけどこの兎ちゃんは、自分が獣化することを知らなかったのか慌てだした。
「ええ! これが獣化というんですね? でも、なんで獣化したのか僕にもわからないんです。入学式が始まるまで庭園で寝ていたら、いつの間にか兎の姿になっていて……オロオロしていたら、誰かに声をかけられてびっくりしてしまって、ここまで逃げてきたんです」
「兎は、自分が獣化する事を知らない?」
「……はい、知りませんでした」
兎ちゃんの言葉に、リチャード殿下はフウッと息を吐き。
「まれにだが――獣化することを知らないまま成長する者がいると、父上に聞いたとこがある。そうか……君に声を掛けたのは学園の警備員だな。庭園で獣化した君を見つけて、保護しようとしたのかもしれない」
「僕を保護……」
足を止めて立ち話をしている、私達に。
「リチャード様この話は後でしましょう。そろそろ入学式の会場に向かわないと、間に合わなくなってしまいます」
と、リルが話しかけた。
「そうだな、わかった……」
本日の入学式には、この国の第1王子リチャード殿下が入学するため。国王陛下をはじめ、大臣などもこの入学式に出席することになっている。
もちろん、隣国人族のカーエン殿下も学園に入学するので、隣国の国王陛下と王妃様もいらしていると聞いていた。
その場でリチャード殿下は代表として、祝辞を述べなくてはならない、入学式に遅刻するわけにはいかないのだ。
「この話は、入学式が終わってからにする。リルは俺の側近だから着いてこなくてはならないし、時間がない。すごく嫌だが……兎はミタリア嬢に預ける。お前、ミタリア嬢に手を出すなよ」
「はい、わかっております」
リチャード殿下と側近リルは祝辞を述べるため、控室に向かい。私は新入生が集まる、学園の会場に兎ちゃんを連れて向かった。
♱♱♱
無事、入学式と殿下の祝辞が終わった。
リチャード殿下と私、側近リルは集まり、学園の庭園に向かっている。――そして問題の兎ちゃんは入学式の間、いまも私の腕の中で、プスプフと気持ちよさそうに寝ていた。
「この兎……まだ寝ているのか」
「ええ、ズッと寝ていますね」
「クソッ……」
(壇上で祝辞を読むとき、リチャード殿下がチラチラ私を見ていたのは、兎ちゃんのことが気になっていたのね)
「ここが庭園か……」」
学園の庭園につくと、近くの茂みに学生服が一式落ちていた。リチャード殿下はそれをリルに集めるよう、伝えた。
「かしこまりました、リチャード様の
「ここに制服が落ちていたのなら、この場所で兎ちゃんは獣化したという事ですね」
「……うむ、そのようだな。おい兎、起きろ!」
「ぎゃっ!」
ガシッと、兎ちゃんの頭を掴んだリチャード殿下。
殿下の前でプラーンとぶら下がり、リチャード殿下が怖いのか顔を青くした。
「兎、目が覚めたか?」
「……はい、バッチリ覚めました!」
私はヒロインの兎ちゃんの扱いが悪い、リチャード殿下にオロオロしていた。
(兎ちゃんの話し方が男の子みたいだけど、女の子だと言いたいけど……)
なぜそれを知っているのかと聞かれて、乙女ゲームでと言いにくい。結局、私はオロオロしかできなかった。
「おい兎、アクセサリーを身に付けていなかったか?」
「アクセサリーですか? アクセサリーなら、両親の形見の指輪を着けていました……そ、それですかね」
――両親の形見の指輪⁉︎
「それは大変だわ、早く見つけないと」
(たしか、兎ちゃんの瞳と同じ石がついたシルバーリングだってはず)
「ああ、おやさしいミタリア様〜。あの、僕も自分で探します。リチャード殿下、頭を離してくださいませんか?」
「いいぞ、俺も一緒に探してやろう。リル、探すのは指輪だ。――早くみんなで見つけよう」
「はい」
「かしこまりました」
みんなで手分けして、兎ちゃんの指輪を探していた。
そこに。
「さっきから黒猫ちゃんと、リチャード殿下達は庭園でなにをしているんだい?」
と私を黒猫ちゃんと呼び、庭園にカーエン殿下と側近が現れた。