――ヒロインは、乙女ゲームの通りで可愛いんだろうなぁ。
登校途中の馬車の中で、リチャード様が用意した朝食を猫のままいただき、満腹になった私はお布団の上でくつろいでいる。リチャード殿下は反対側で読者していた。
「着いたら起こすから寝てていいよ」
リチャード殿下はそう言ってくれたが、ヒロインと会うと思うだけで、私の瞳は冴えてしまい寝たフリをしている。
しばらくして、コンコンコンと御者席側の壁が叩かれた。
「リルか、どうした?」
「リチャード様もうすぐ、王都へ到着いたします」
「そうか……ミタリア嬢おきろ、学園にもうすぐ着く」
リチャード殿下は私のモフモフの頬を突っつく、フカフカお布団の上で寝たフリの私は、欠伸をしながらのっそり起きた。
「もう学園に着いたのですか? リチャード様、おはようございます」
「おはよう、ミタリア嬢。もうすぐ着くから、着替えて」
目を瞑ったリチャード殿下に、私は腕輪を付けて獣化から戻り、いそいそと馬車の中で制服に着替えた。
「リチャード様、着替え終わりました」
「わかった。あ、ミタリア嬢、寝癖が付いてる」
リチャード殿下の手が伸び、私の後頭部を優しく撫でた。驚きピクッと体が反応したけど、頭を撫でられるのは嫌いじゃない。むしろ気持ちよくて、もっと撫でてと擦り寄せてしまう。
(わぁ、リチャード殿下の手って気持ちいい)
「ふふっ、ミタリア嬢、寝癖が直ったよ」
「ありがとうございます、リチャード様」
「あ、待って、ここにも寝癖だ」
リチャード殿下は私の耳を、サワサワ触った。
「え? ひゃっ、ま、待ってください……そこは私の耳です……ピャ⁉︎」
敏感な耳を触られて体が動かなくなる、リチャード殿下はそれを知っているから、いいだけ私の耳を触った。
「ハハハッ、ごめん、ごめん、寝癖じゃなくミタリア嬢の耳だった」
「もう、はじめからわかっていましたよね。……もう、リチャード様の耳も触っちゃいますよ。耳を触られるのお嫌いでしょう?」
このまえ偶然、指が耳に触れたとき、私と同じく体が強張った。
リチャード殿下は頷き。
「そうだな、ミタリア嬢にだったらいいぞ。2人きりの時に今度、触ってもいいぞ」
「あ、今、言いましたわね、約束ですよ」
「ああ、約束だ」
♱♱♱
王都の西側にある学園、ここで乙女ゲームが始まる。
学園の門を通ると、学校に通う学生たちは私達の登場に振り返った。
(この風景、ゲームのスチルで見たわ)
「まあ、リチャード殿下とミタリア様よ、お似合いの2人だわ」
「リチャード殿下とミタリア様、素敵」
「お近づきになりたいわ」
令嬢たちが頬を赤らめて、素敵なリチャード様を眺める。その中には嫉妬して睨みつける令嬢も……『あれっ、いない?』私を含め、和やかに挨拶されていた。
「なんて、お似合いの2人なのでしょう」
(あれれっ?)
「どうした、ミタリア嬢? 周りの目が気になるのか?」
「いいえ、皆さんその……温かく、私達を見守ってくださっているから」
(乙女ゲームの様に、周りから嫉妬の目を向けられると思っていた)
「そんなの当たり前だろ。舞踏会でのチココの一件、食糧難の一件でミタリア嬢の株は王族、貴族会、国民の中で上がり続けているからな」
――私の株?
「そ、そうなのですか?」
「学生達はミタリア嬢に話しかけたくても、俺と後ろから着いてくる側近のリルが側にいるから。近付くことも、話しかけもできない。まっ、話しかけなどさせないけどな、クックク」
横でリチャード殿下は楽しそうに笑い、意地悪な顔をしていた。
(リチャード殿下のこういう顔は初めてだわ)
そんな私達のところに『そこ、どいて!』と叫び、1匹のピンクが突っ込んできた。
(あ、長い耳、丸い尻尾? ……う、うさぎ?)
これは乙女ゲームの時とは異なる、ヒロインの登場の仕方だった。