カーエン殿下は笑顔で、出店に私達を向かい入れる。
「いらっしゃいませ、リチャード殿下とミタリア嬢」
「ごきげんよう、カーエン殿下。多くの方で賑わっていますね」
「野菜詰め楽しそうだな。ミタリア嬢、僕たちもやってみるか」
「はい」
返事を返すと、リチャード殿下は2人分の料金を先に払ってしまった。
「あ、ここは私が出そうと思っていたのに」
「ハハッ、ミタリア嬢には払わせないよ。さぁ、野菜を袋に詰めるぞ」
リチャード殿下に手を引かれて、空いたスペースに2人並んでジャガイモ、ニンジン、サツマイモを袋に溜め込む。他の人たちも仲間たちと並んで和気藹々、笑顔で野菜を袋に詰めていた。
「ミタリア嬢、中々は野菜の袋詰めは面白いな。僕はミタリア嬢には負けないぞ」
「リチャード殿下、野菜詰めの勝負ですか? 私も負けませんわ」
2人で見あっていた。
「なになに? リチャード殿下とミタリア嬢は袋詰め勝負ですか? 楽しそうですね、どちらが勝ってるかな?」
カーテン殿下は私達の話を聞いていたらしく、2人で袋を見せている間に割り込んで、袋を見比べ始めた。その彼から、ふわりと甘いチココの香りがした。
それにリチャード殿下も気付いたらしく、眉をひそめている。
(休憩の時にでも食べたのかな?)
そんな私と殿下のことを知ってから知らずか、彼は目を細めて笑って。
「うーん――僕から見ると、どっちも同じくらいかな? ねぇミタリア嬢、僕を見てみて、可愛いでしょ?」
いきなりカーエン殿下が私の方を向き、いま身に付けている付け耳と付け尻尾を見せてきた。
「え? ……ええ、可愛いと思います」
「ほんと? ミタリア嬢に似せて、国の職人に作ってもらったんだ、褒めてくれてありがとう。……でも、ミタリア嬢の本物の耳と尻尾がぴこぴこ動いて可愛い。参考にするから、その耳か尻尾を触らしてほしいな? いいでしょう?」
(えっ!)
カーエン殿下はにこにこ笑い、手を伸ばして私に触れようとした所を、リチャード殿下が私の手を引き背に隠した。
「カーエン殿下、俺たちの耳と尻尾は大切なんだ、無闇に触らないでもらおうか。他の国の者たちのもだぞ!」
「そ、そうです、リチャード様の言う通り、私たちの耳と尻尾には神経が通っていて敏感だから触られるのは苦手です。それに私は婚約者にしか触らせません」
殿下の背に隠れながら伝えた。今、私が婚約者にしか触らせないと、言ったことにリチャード殿下が反応を返す。
「えっ、僕ならミタリア嬢の耳と尻尾を触ってもいいの?」
「ま、まだ触られるのなら……リチャード様の方がいいと言っただけです」
「そうか、そうだよな。僕も耳と尻尾を触られるのは苦手だからな」
少しがっかりした様子の殿下に、ボソッとカーエン殿下には聞こえない声で「本当に耳と尻尾は敏感なんです。触るなら……優しく触ってくださいね」と、小さくリチャード殿下に伝えた。
♱♱♱
カーエン殿下は伸ばした手を戻した。
「分かった触らないよ、でも、いつか仲良くなったら触らせてね」
「仲良くなっても、君には触らせない!」
まったく懲りていないカーエン殿下は目を細めて、出店に戻って行った。
「やはり、カーエン殿下は油断ならないな。隙を見て、ミタリアに触れるつもりだ……」
「リチャード様、守ってくれてありがとうございます」
「当たり前だ、ミタリアは俺の婚約者だからな」
優しくなら触ってもいいと言ったからか、尻尾を揺らして嬉しそうなリチャード殿下。そして、そろそろ視察の交代の時間だなとも言った。
「リチャード様、誰と交代するのですか?」
「側近のリルだ」
「リル様ですか? 彼は1人で視察をするのですか?」
「ああ、あいつ、1人でいいと言っていたからな」
リチャード殿下は胸ポケットから銀色の笛を出して吹く。少し待つと側近のリルがこちらに走ってきた。
「リチャード様、お待たせいたしました。交代させていただきます!」
「後は任せた、よろしく頼む」
殿下は着けていた腕章を外して、側近のリルに渡した。
「よろしく頼まれました。リチャード様、ミタリア嬢デートいや、視察ご苦労様でした」
そう言って、彼は私たちに頭を下げた。