「【血液強化】」
正直な話、私の狙いはキザイアのキルではない。
あからさまに怪しい半透明の仮面。
アレが現状のキザイアの状態に関係があるのだろうし、何かしらのイベントも進むだろう。
だがそれは本当にアレが
キザイアの手札の全てを知っているわけではない私は、あの半透明な仮面がボス戦由来のモノなのか、キザイアの装備品、或いは習得魔術であるのかが判断できない。
第一目標にはしているが、装備品や魔術だった場合……キザイアには申し訳ないが私の経験値になってもらうしかないだろう。
だからこそ。
私は今から全力でキザイアの出来る事を潰していく。
「『目に見えぬ狐が走る』」
狐面から霧を大量に、濃く引き出して。
それらは私を中心に渦を巻いていく。
当然、私の詠唱を邪魔するつもりなのだろう。
キザイアが拳を振り上げ迫ってこようとしているが、見えているのならば私は移動をする事が出来る。
……別に移動不可能なんて制限は無いからね。
『脱兎之勢』はこういう時に便利だ。
魔術言語によって作られたニーハイブーツは、瞬間的な移動においてかなりのアドバンテージを作ってくれる。
「『戦場が白に染まり』、『狐は全てを知覚する』」
『ヂジュッ!』
『ジュッ!』
『――阻止』
次は【ジェイキン】が2匹、私の死角と正面の虚空から出現し2方向から首元へと攻撃を仕掛けてくるものの。
【血狐】が身体全体を波のように変え、飲み込むことで無力化してくれる。
ある程度自由にさせているものの、細かい指示をせずともフォローしてくれるだけの思考能力持ちはありがたい。
渦を巻いていた霧が私の身体へと集まり始めたのを見て焦ったのか、キザイアが髑髏の付いた杖を出現させて振るう。
瞬間、彼の周囲に緑色の炎が複数個出現しこちらに向かって放たれる。
【血狐】は未だ出現し続けている【ジェイキン】の対処でこちらのフォローは出来ず、【路を開く刃を】を使おうにもキザイア相手に背中の護りを剥がすわけにはいかない。
ならばと、『面狐・始』を軽く振り下ろす事で【魔力付与】を発動させ。
その形状は長く細い……元が短剣の『面狐・始』に太刀のような長さの魔力の膜を刀身として纏わせる。
狙いが甘いのか、それとも何か意図があるのか。
こちらに直撃しないものも幾つかある中、私は身体に当たるコースにある緑の炎だけを狙って短剣を振るう。
一振り、二振り、三振りもすれば、直撃する緑の炎は空中で叩き斬られ霧散した。
「『これは我が理想』、『我が纏う恣意の具現也』」
あと一言、魔術名を言うだけで発動する事が出来る。
そう思った瞬間、私の足に何かが触れた感覚がした。
視線を下に向ける。
すると、だ。そこには緑色のゲル状の何かが、私の足に纏わりつこうと蠢いているのが目に入ってしまった。
……これが目的か!
先ほどキザイアが放った緑の炎。
アレは炎に見えるだけの、召喚系の魔術か何かだったのだろう。
私の斬撃に当たったモノはHPが削り取られてしまいゲル状の……所謂、スライムとして形を成す前に霧散した。
しかしながら、それ以外はそのまま残り……今、私の足を止める為に纏わりつこうとしているのだ。
高速移動する相手を確実に捉える為の足止め。
恐らく【ジェイキン】が絶え間なく襲い掛かって来ているのも、意識をスライムへと向けない為の囮役でもあるのだろう。
「ッ……【狐霧憑り】
魔術を発動させると同時。
まだ完全に纏わりつかれていない足を無理やり動かし、地面を踏み鳴らし。
そのまま再度震脚をするように足で地面を強く踏みつけた。
瞬間、【
だが、一手をスライムの除去に使わされたという事は。
キザイアがその隙に私に近づこうとしてくるという事。
【狐霧憑り】の効果によって表示された矢印で、キザイア本体の姿を見ずともどこにいるのかはある程度確認する事が出来ている。
恐らく、私が魔術を発動させるかそれより前から走り出していたのだろう。
既に『脱兎之勢』や【衝撃伝達】を使おうにも、距離をとる前にキザイアの近接攻撃が当たってしまう。
「一発殴らせてもらうわ」
「簡単に女を殴るとか言うもんじゃないよ」
焦らない。
寧ろ落ち着いて、しっかりとキザイアを見据えにっこりと笑う。
キザイアが拳を振り上げ、私は霧を操った。
先程と同じ魔術を使っているのならば、彼の拳の範囲内に居た場合……恐らく私のHPは削り切られてしまう。
だが、私は私の培ってきた技術と魔術を信じて足を動かさない。
――キザイアの拳が、振るわれる。