ゴースト種の敵性モブの特徴として、物理攻撃に対する絶対的な耐性を持っている点を挙げられる。
実体がないという設定なのか、質量を持った攻撃は全て身体を
逆に現象系……炎を飛ばす、雷を落とす、瞬間的に凍らせるなど、実体を伴わない攻撃ならばしっかりとダメージを与えられる為、しっかりと魔術を複数種類習得出来てさえいれば対応が出来る種類ではあるのだ。
それに、神聖なもの……十字架や聖水のような分かりやすく除霊に効果がありそうな物から、それらを象った物ならば実体があったとしてもダメージを与えられるという話は聞いた事がある。
しかしながら、それは普通の敵性モブとして出てきた場合の話であり。
ボスとして出現した時のゴースト種は正直言って人気が全くないと言える。
「ダメージ上昇系はあるけど、切り札になるような現象系なんてあるわけないでしょ……!」
理由としてはこれに尽きるのだ。
勿論、プレイヤーの中には現象系魔術を切り札とする者は居ないわけではない。
それに、魔術の中には『炎を纏った岩石を落とす』といったような核になる部分ではダメージを与えられないものの外側の部分でゴースト種に有効なモノも存在はしている。
だからこそ、手がないわけではない。
「あぁもう!」
目の前の何もない空間に対して拳を振るう。
それに伴って透明で巨大な
だがしかし、ダメージ自体はほぼ無いに等しい。
相手と距離を取る為に作成した魔術である為に、ダメージに回すリソースをノックバック性能に回したのだから。
キザイアというプレイヤーの習得している魔術の中に、実体を伴わないモノはほぼほぼ存在していない。
今使っている魔術や、ボスエリアに入る前に使っていた探索、索敵用の魔術以外には無いと言っても過言ではない。
つまるところ、今彼の目の前に存在しているゴースト達は天敵なのだ。
だが、彼はそんな天敵に対して対策を用意していないような初心者ではない。
「クランの経費で落ちなかったら恨むわよ、アリアドネ……ッ!」
インベントリ内から大量の、文字の書かれた羊皮紙を取り出して。
拳を振るう事でそれらを更に広範囲へとばら撒いた。
瞬間、ゴースト達は彼へと殺到する。攻撃をしてこないと判断したのだろう。
半透明な手に持った剣や槍、斧などを振り上げ理性など既に存在していない眼でこちらを睨みつけてくる英雄達に対して、彼は笑う。
「アンタ達の生きてた時代に
半透明な武器がキザイアに触れるかどうかといったところで。
ばら撒いていた羊皮紙はそれぞれ様々な色の光を放ち始める。
赤い光は炎の柱を、青い光は渦巻を、黄色い光は電撃を。
それ以外にも強烈な冷気や、毒ガス、光そのものが爆発しているように見える場所も存在していた。
「
やっていることはアリアドネのよくやる魔術言語によるアドリブ構築に近いものだ。
羊皮紙に魔術言語によって構築した魔術のようなものを書き込んでおき、その場その場に合わせて魔力を流す事で効果を発揮させるインスタント式の攻撃方法。
効果を限定、魔力の通し方にも制限を加えた事で、暴発する危険性を下げた結果……技術的な意味でのコストが嵩んでしまい、あまり数を用意できるようなものではないのだが……そう言ってられる状況ではないのも確かなのだ。
「ぐ、ぅうう……HP結構削れたわね……」
自爆にも似た攻撃方法によって、自身のHPも半分ほどが削れてしまっているものの。
周囲にいたゴースト達は跡形も無く消え去っていた。
息を吐きつつ、ポーションを使って削れたHPを回復しつつ周囲を警戒していると。
不自然な事に気が付いた。
「……?ゴーストが1体も居ない……?なのにボス戦が終わってない……?」
目に見える範囲にゴーストは1体も居ない。
なのにボス戦が終わったというログが流れない。
こんなに簡単に終わるわけがないとは思っていたものの、流石にこの状況は不自然が過ぎる。
警戒を怠ってはいないものの、流石に1体も敵がいないというのは困りものだ。
だが、変化はすぐに訪れた。
先ほど消し飛ばしたはずのゴースト達が、再度……否。
先ほどよりも多い数が出現し始める。
「ちょっと無理よコレ!?」
ウェーブ型とでも言えばいいのだろうか。
防衛戦のように何度も何度も敵性モブを倒し続けるタイプと言えば分かりやすいかもしれないが、そこに出てくるのがゴースト種しか居ない時点でクソゲー確定だ。
程なくして、彼の身体はゴーストの群れに飲み込まれてしまう。
――主人公はまだ現れない。