『制御しようとしている云々、と最初に言われても困った顔をする理由は……これだ』
蛇は『言語の魔術書』を指す。
うっすら私にも分かっていたが、やはりこの魔術書が問題だったらしい。
というか、私がそれから学んだのだから当然だろう。
『これを作るのに使われた【怠惰】はなぁ……簡単に言えば、習得を楽にするとかいうもんなのだが』
「それが悪いんですか?」
『悪いだろう。確かに万人がこれを読めば魔術言語を使えるようになるだろうよ。だが、その分本来知るべきリスクなどを知らずに使う事になる』
蛇曰く、これは火の危険性を知らずに松明を使うようなもの、との事。
当然、それを知らずに使っていれば最終的に火事など取り返しのつかない事になる。そう言いたいのだ。
魔術言語にも同じことが言えるようで、
『貴殿は知っているか?魔術言語を扱った時のリスクを』
「いえ……確かに知りませんね。便利だなぁとは思ってましたけど」
『だろうな。そっちの巫女はどうだ?』
『私は一応知っていますよ。確か『業に吞まれやすくなる』と父から聞いた覚えがあります』
『うむ。業、カルマ、悪性……色々と呼び名はあるが、そういったモノらに見入られやすく、呑まれやすくなってしまうのがリスクでありメリットでもあるな』
そう言われ、私は内心納得する。
なんせそれを言っているのがこの場で言う『そういったモノ』なのだから。
そんな私の視線に気が付いたのか、心外かのように机にべちんべちんと尾を叩きつけながら、
『む、我は違うぞ!我は良いものだ』
「え……?」
『いや、本当だぞ?他のと比べれば本当に善寄りだ。【嫉妬】も【羨望】も、どちらも善の感情から生まれ、そして善の感情に変わりやすいものである故な』
それらしい事を蛇は言っているものの、あの図書館を見た後だと素直に頷く事は出来ないだろう。
完全に悪性変異を遂げた魔導書が大量に存在するあの場所を根城としている時点で、善の存在からはかけ離れすぎている。
だが、ここでそれを突いても話が進まない。
「まぁそれは良いとして。そこを知る事で無駄が減るんです?」
『いや?減らないが』
「……」
『ま、待てアリアドネ!話の途中だ!霧を我の周囲に集めるんじゃない!』
霧をワシの形状にして蛇の周囲に集めていたのをやめ、続きを促す。
但し、私の両肩に霧のワシを乗せた状態で、だ。
後ろで巫女さんが何やらくすくす笑っているものの、これ以上脱線などをされるのも困る。
『う、うむ……とりあえず。リスクを知る事で、自分側でもリスクを減らすように魔術言語を組む事が出来るようになる、という事だ。だが今のままの貴殿ではそれが出来ない。【怠惰】によって使い方が縛られているからだ』
「そういう感じみたいですね」
『だから、我が魔術言語を一から教えよう。こんなガッチガチに子供用みたいに安全になってるもんじゃなく、しっかりとした大人用をだ』
確かに言われてみれば、色々と安全に配慮されているのならば子供用だろう。
……でもそれを考えると、【怠惰】さんってかなりお人好しな性格してそうだなぁ。
いつか他の大罪系の存在と出会う事もあるかもしれない。その時は一応お礼を言おう。
「じゃあお願いします」
『おう、では構築の仕方……は、良いとして。そも、魔術言語自体の構築から教えよう』
「……?魔術言語自体、ですか?」
『貴殿は魔術言語同士を組み合わせる……言わばパズルをするのは得意だが、そのパズルのピースを作るのは得意ではないだろう?寧ろ専門外のはずだ』
全身が魔術言語の蛇は、魔術言語の事をパズルと称した。
そして確かに私はそのピース自体を作る事は出来ない。
というより私は元々ある物を組み合わせ、自分の望む現象に近いものを引き起こしているに過ぎないのだから。
だがパズルのピース自体を作るという事は、想像通りの物を構築することが出来るようになるという事。
その利便性は計り知れないだろう。
「勉強に使うモノは『The envy first tale』だけで良いんですか?」
『あぁ。というより他のモノは用意したところで我の同僚の力が関わっているだろうからな。今回は【怠惰】だったから良かったが、【強欲】や【色欲】などだったら……遥かに面倒だったろうよ』
「ほう……」
私はその言葉を聞いた上で、他の魔術書も取り出してみる。
その時に気が付いたが、私が持っている魔術書は3種類しかなく。
一応教本を読んだ付加魔術は、あの後【海岸】の方へ行っていない為に魔術書を取得していなかった。
……後で取りに行った方がいいなぁ。
『おぉう……それは【強欲】と【傲慢】のモノだな……【怠惰】の力も感じるという事は、基本的に我らの力を使った上で【怠惰】が本という形にしたな?』
「ちなみに他にも色々あるらしいですよ。持ってないだけで知ってるのは言霊と付加かな……ちなみに【嫉妬】の力が使われてる技術って何なのか分かります?」
『そうさなぁ……恐らく我々が専門にしていたモノを本にしておるだろうし……我だと
何やら光指す道になりそうな名前の技術があるらしい。
一応キザイアや灰被りなど色々知っていそうな知人達に場所を聞いてみよう。