「んんー、良い天気」
青い空、流れる雲、暑すぎない日差し、そして心地よく吹く風。
ふぅ、と1つ息を吐くと私は周囲に転がっているものを見降ろした。
そこには所々から赤い液体を流してはいるものの、まだビクビクと動いて死んでいないことをアピールしている大きな鮫の姿があった。
ミストシャーク。『惑い霧の森』に出現する敵性モブの1種だ。
かつては少しばかり面食らった相手ではあるものの、その腹いせをするために死の一歩手前で放置しているわけではない。試したいことがあったのだ。
私は今も血を流しながら地面に転がっている鮫に近づくと、【始まりの街】で入手した木のコップに鮫の血液を溜めていった。
【『霧鮫の血液』を入手しました】
「あー、やっぱりかぁ」
手に持っていた木のコップが光となって消え、私の身体へと吸い込まれる。
インベントリを開き確認してみれば、きちんと『霧鮫の血』というアイテムが入手出来ていることが分かった。
笑みを深くすると、私は転がっているミストシャークにトドメを刺した。
モブの血に関しては前々から入手できないかと考えており、その答えがつい先日このダンジョンのボスによって氷解した。
入れ物がないと液体は入手できない。現実では普通の事なのに、何故ゲームではそれが考えつかなかったのかと少しばかり頭を抱えつつ。
私は現在、モブの血を狩りに来ているというわけだ。
「うーん、やっぱり便利だなぁこれ」
手首に着けている青色の半透明な鈴を掲げる。
すると周囲に居るモブの方向が青色の矢印として身体の周囲を囲むように出現した。
『霧の社の手編み鈴』、ボスクエストであったウェーブ防衛のクリア報酬のアクセサリーだ。
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『霧の社の手編み鈴』
種別:アクセサリー
等級:特級
効果:一定範囲内の霧の中に存在する敵対者の方向を指し示す
説明:白い毛で編まれた紐に付けられた、半透明の青い鈴
中には霧のような煙が渦巻いている
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私が自身に足りていないと感じていた索敵系の効果があり、中々便利ではあるのだが……現状、この効果を十分に使えるのが『惑い霧の森』内か『白霧の狐面』によって霧を大量に発生させた時のみという、少しだけ残念な代物だ。
といっても、ある意味でこれは記念品のようなものだと考えているためこれくらいの性能が丁度いいのだろう。
「んー……もうちょっと狩ってもいいけど……まぁいいか、一旦帰ろう」
ある程度欲しかった素材も集まっているため、一度やりたいことをやるために【始まりの街】へと帰還することにした。
セーフティエリアの焚火から【始まりの街】へと戻ってきた私はそのまま宿の自室へと戻り、今回集めてきた素材をインベントリで改めて確認する。
中にはウェーブ防衛で手に入れている素材も混じっており、霧関係の魔術を創ったりするには十分すぎる量が集まっていた。
と言っても、今回するのはまた別で。
今回はウェーブ防衛の最後の最後、白蛇との戦闘時に習得したと思われる【
一応掲示板を覗いてみたものの、【創魔】の体系追加や等級強化が行われたと書き込んでいるプレイヤーは見かける事が出来なかった。
少なくても誰かはやっているだろうが、情報を出さないタイプの人間なのだろう。
私もそうなのだが。
「まずは【血術】の方かなぁ」
習得魔術の一覧を出現させ、【血術『名称未設定』】を呼び出した。
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【血術『名称未設定』】
種別:血術・補助・特殊
等級:初級
行使:未設定
効果:継続的にHPとMPを消費しつつ、身体能力を5%強化する
発動後【貧血】を(レベル+1)分、自分に付与する
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Tips:【貧血】
付与されている時間中、身体に関わる能力が10%低下する
造血剤などを使用する事で回復することが可能
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ウィンドウが突然2つ表示されたことに驚いたが、よくよく読んでみると関係する内容だったので納得した。
名前と『起動方法』が未設定のため、あの時の戦闘のように発動させることが出来ないが十分強い。
等級が初級ということは等級強化も行えるのだろう、パッと良く分からず習得した割には便利だ。
……【脱兎】や【衝撃伝達】よりも便利に使えそうな魔術だけど、デメリットもあるから使いどころは考えないと。
「……とりあえず、名前は『血液強化』、『起動方法』は【発声行使】で設定と」
良い名前が浮かばなかったため、【血術】から名前をとって【血術『血液強化』】。
【発声行使】にした理由としては、【魔力付与】の等級強化した時に発声が追加されたため、どうせ強化すれば【動作行使】あたりが追加されるだろうと予想し、初めは使いやすい発声の方がいいだろうと考えたからだ。
設定を行うと名前の部分にくっついていた【血術】と言う部分が消え、【血液強化】だけとなった。