「今何回目だっけ?!」
「大体10回目くらいじゃなかったですか!そろそろラストになってくれると良いんだけ、どッ!」
近くに居る白い毛をした狼を事前に【衝撃伝達】を乗せた脚で蹴り、怯んだ隙にその頭に『熊手』を突き立てる。
ぱきゅ、という小気味いい音と共に少し気持ちが悪い水音がした後、狼は光となって消えていった。
現在、ウェーブ防衛10回目。
4回目あたりから徐々に新種が増えてきた防衛は、今では4人で特大のモンスターハウスにでも踏み込んでしまったのかと錯覚するくらい敵の量が増えていた。
今しがた私が倒したのはミストウルフという、突然身体を霧に変えて死角から襲い掛かってくる敵モブだ。
恐らくは『惑い霧の森』の何処かには存在しているのだろうが、一度も会ったことがなかったモブであるため、初見の時は戸惑った。とはいえ、今では『白霧の狐面』の効果で霧を操り、逆に強制的に実体化させてボコボコにするという一種の攻略法を確立させることが出来たため、そこまで脅威にはなっていない。
他にも、私の背中側に回り込むように地面を進み頭を出した所を砲撃でやられたミストモールや、霧によって大量に自分と同じ姿を作り出し襲い掛かってくるミストラットなど、個々で戦ったとしても面倒なモブが新たに構成に加わっていた。
中でも一番面倒なのは水辺でもない癖に、自身の周囲に霧を出現させることでその中を泳ぎ襲い掛かってくる霧の鮫……ミストシャークだった。
『ギッギッギッ……』
「ッ!鮫来ます!」
「「「了解!」」」
私がいくら濃い霧を発生させた所で、そもそも霧の中を泳いで移動しているため移動範囲を増やすだけで無駄。
ならばと霧を操作し見当違いの方向に誘導しようにも、彼ら自身も霧を生み出して移動しているため無駄。
そして極めつけは、せめて【霧の羽を】で足止めが出来ないかと使ってみたものの……現実の鮫と同じ身体の作りをしているのか、ロレンチーニ器官……こちらの身体が放っている微弱な電磁波を感じ取ることで、視覚阻害を実質無効化して突っ込んでくるのだ。
つまりは私の一時しのぎ手段がほぼ全て封じられたといっても過言ではなかった。
唯一助かることと言ったら、ミストシャークが出現しこちらへと攻撃してくる前には特有の何かが軋むような音がするくらいだろうか。
それがあるだけでも、音のした方向からミストシャークの位置を割り出すことが出来るため身構える事が出来るのは大きい。
「よし、獲った!後何体!?」
「あと2体!鼠と鷲!」
「砲撃任せた!前衛組は休憩するからー!」
「任されたァ!」
しかしながら、そんな戦闘を何回も続けていれば流石に身体も慣れるもので。
徐々に数は多くなるものの、各個体に苦戦することはなくなり処理できる速度も上がっていった。
ドゴン、というもう何度聞いたか分からない音と共に空中に文字が出現する。
【Ten Wave Clear!】
【Next Last Wave :0:05:00】
【カウントダウンを開始します】
そうして新たに出現した文字は、次が最後のウェーブだと報せるものだった。
しかしながら既にカウントダウンは開始されており、準備時間は5分もない。
「皆、消費は大丈夫?」
「後衛だからこっちは大丈夫だ」
「横に同じくですね」
「私もほぼ魔術使ってなかったから大丈夫だね。アリアドネちゃんはどうなんだい?」
「私はぁー……そうですね、少しだけMPが減ってますけど、5分あれば回復する程度なんで大丈夫です」
このウェーブ防衛を繰り返すうちにレベルも上がっており、既に12レべに到達している。
素材も手に入っているため、後々メウラに新しい装備か今使っている装備のアップグレードを頼むつもりだ。しかしながら結局魔術も創っていないため、新しい魔術を創り出すというのもいいかもしれない。
捕らぬ狸の皮算用ではなく、
夢のある考えではあるものの、今すべきことではないと首を横に振った。
「とりあえず次ラストで何が出てくるか予想してみようぜ」
「いいですね、私は単純に今まで出てきたモブがさっきよりも大量に出現すると思います」
「あっ、くそ一番無難な所取りやがって。……じゃあそうだな、俺はデカブツ……熊や鮫系だけしか出てこない、とかにしておこう」
「じゃあ僕は……そうですね、数は変わらずに新種のモブが追加とかどうですか?」
「ふむふむ、皆結構面白そうな予想を立てるねぇ」
「そう言うフィッシュさんはどうなんですか?」
疑問に思い、何故かこちらをドヤ顔で見てくるフィッシュに問いかける。
すると、彼女は一瞬で真面目な顔を作り、真面目なトーンでこう言った。
「いいかい?こういうのの最後ってのは相場が決まってるんだよ――」
【カウントダウン終了】
【Last Wave Start!】
そうして、彼女はゆっくりと……境内の入り口の方へと振り向きながらこう言った。
「――1体の超強い奴が出てくるのさ」
1匹の白く巨大な蛇が、そこに居た。