Chapter1 - Episode 28


変化はすぐに訪れた。

私の放った濃い霧は霧散することなく、そのまま形を変え。何度も何度も斬りつけたあの白い巨大な狐が姿を現した。


『……次は改修した時に、と言ったはずだが』

「私もそう思ってたんだけど?あんた説明してないことあるわよね?」

『……なんのことだか』

「と言うかすぐに出てくるって事はさっきまでの戦闘も見てたわよね?ボスクエストの方にも事情載ってないし、あんたから聞かないと訳分からないし防衛もする意味あるのか分からないんだけど」


私の言葉に巨大な狐……『白霧の森狐』は明後日の方向を向いた。

その仕草に少し、否。かなりイラっとしたものの、ここで『熊手』を取り出し切りかかっても仕方ない。


「いやまぁ、別に良いんだけどね。あんたが話さないってんなら私達はここから離れるだけだし?それで困るのあんただけだし」

『チッ……獣人の仔らよ。鈍臭いこの狐の女子おなごが答えに辿り着かなかった所為で迷惑をかけた。謝罪をしよう』

「あ?喧嘩か?喧嘩をしたいのかこの白狐」


私の言葉に少しは思った事があったのか、舌打ちをわざと私に聞こえるようにしたあとに後ろの……フィッシュ達へと視線を向け謝罪を述べた。

ご丁寧に私を煽るような文言を加えてだが。

……最近のAIは中々に人を煽る性能も高いのねぇ。


『狐の女子が言うように、事情を知らぬままでは改修もままならぬだろう。……1つ、話をしよう。まぁ簡単な話だ、力を抜いて聞くと良い』


そうして狐は話始めた。

所謂ゲーム上のバックストーリー……背景と言われる物語をある程度端折った形で。


曰く、ここには元々魔に狂った動物たちを運び込み浄化するのを生業としていた一族が住んでいた……らしい。

曰く、その一族に代々仕えていたのが『白霧の森狐』を代表とした白狐達だった……らしい。

曰く、ある時浄化に失敗し魔の力が暴走、神社を中心に森を形成し、溢れた魔の力が霧となって漂うようになった……らしい。


「つまりはあの襲ってきたモブ達って」

『左様。浄化してもらおうとやってきた者達だろう。大方、既に主達が逝ってしまったことにも気が付かずに縋ろうとしているのだろうよ』

「……地味に重めな設定をこんな序盤に置くなよ運営……」


魔術がある世界ならではの事故なのだろう。

こうして考えてみると、面白そうという理由で『惑い霧の森』ここを残したのは少しばかり失敗だったのかもしれない。

背景を考慮するなら明らかにダンジョン自体を無くしてしまった方がNPC側は幸せなのだから。


「ちなみに神社を改修したらその浄化とかはどうなるんだい?」

『我が代行しよう。それくらいの力はこの身に宿っている』

「……そんな力あったならなんで私と戦ってる時に出さなかったの?」

『腹の中に自らの力を放って自害せよと申すのか貴様は』


明後日の方向を向いて出来もしない口笛を吹く。

良く分からない話を突然しないでほしい。


何故かフィッシュが爆笑しているが、それはそれ。

とりあえず敵性モブが来る理由とここを改修する、クエスト達成以外での意義を見出せたため良しとしよう。


「とりあえず話を聞かせてくれてありがとう。出来ればこのまま防衛にも参加してほしいんだけど?」

『出来ないこともないが、その分来る量も増えるぞ?』

「あんたは座ってて」


今後あと何回ウェーブ防衛が発生するかも分からないのに、敵の数が増えるというリスクは背負いたくない。

その後『白霧の森狐』はまた霧に溶けるように消えていき、私達4人は改修のための素材集め、それと並行してウェーブ防衛に対する作戦を各々で考え始めたのだった。



暫くして、再度空中に文字が浮かび上がる。

今回は2回目とあってか、私やメウラが混乱することもなくスムーズに各々が各々の配置につく。

結局の所、私達は私達だけでこのウェーブ防衛を乗り切ることを決めた。

理由は簡単で、新たに人を呼ぼうにもこのエリアまで連れてくるのがまず面倒というのが1つ。

次いで、『白霧の森狐』が言った言葉から考えて、メンバーが増えれば増えるだけ敵の数も増えるのではないかと考えたためだ。


【ウェーブ防衛開始】

【Second Wave Start!】


2回目となるウェーブには、1回目で出現したミストイーグルとミストベアーがそれぞれ数を少し増やしただけの構成だった。

少しばかり拍子抜けしたものの、ミストベアーの一撃を喰らえば最悪デスペナになる可能性はあるのだ。気を抜くことは出来なかった。


『熊手』を振るい、そして発動した【魔力付与】の形状変化を使う事で見た目以上の範囲を切り払う。

武器の特殊効果も乗っているのか、私が思った以上の範囲に渡って斬撃の跡が刻まれるが、狭いよりは広い方がお得だろう。


試行錯誤しながら敵の効率的な倒し方を探り、結局の所現実と同じように急所を狙えばいいという考えに行きついた辺りで2回目のウェーブ防衛は終了した。

そして再度出現するカウントダウンに、少しばかりげんなりしながらも、近寄ってくるパーティメンバーたちと勝利を喜び合ったのだった。