ボスを倒したからといっても、私は別段強くなったわけではない。
裏技的にあの狐を倒したからだろう。戦闘技術が高くなったわけでも、私の習得している魔術が何か変わったわけでもないからだ。
変わった所と言えば……狐面を手に入れた程度だ。
「メウラ!そっちも来たけどどう!?」
「ゴーレム追加しても足りねぇなぁ!」
「了解ッ!」
霧を操り、メウラの方へと襲い掛かろうとしているミストイーグルの眼前を覆う。
それに驚き一瞬動きが止まった相手を、メウラは手に持っているトンカチで地面へと叩き落とし近くに居る数体のゴーレムと共に袋叩きにした。
場所は『惑い霧の森』。
ボスクエストを進めようということで軽い気持ちで訪れた私達だったが、1つ重要な事を忘れていたのだ。
それは、パーティの人数増加に伴うミストイーグルの襲撃数の増加。
狐面の効果によって視界は今まで以上にクリアではあるものの、だからこそ分かってしまう。
こちらが1体倒すごとに、ミストイーグルも1体どこかからか出現しているのだ。
それらが規定の時間経つごとに奇襲をかけてくる。
「よし、見つけたッ!セーフティエリアだ!」
「案内頼んだ!」
「オーケィオーケィ、こっちだよ!」
結局の所、処理能力を超えて出現するミストイーグル全てを相手にするには武器の変更や範囲殲滅系の攻撃魔術が必要になるのだろう。
しかしながら手持ちにそんな便利なものは現在存在していないため、ここは逃げの一択だった。
霧の中でも十二分に視界を確保で出来るようになった私が先頭に立ち、その後ろをメウラが、そして私達の周りを護衛するように木や土で出来たゴーレムが囲む。
私達の姿を隠すように濃い霧を周囲に発生させ、そのままセーフティエリアへと走っていく。
たまに目の前に降りてくるミストイーグルもいるにはいるが、こちらの姿が見えているのならば【霧の羽を】によって地面に叩き落とすことが可能なため、そこまで障害となることはない。
そんなことを繰り返すこと数回。私達はやっとの思いでセーフティエリアへと駆け込むことが出来た。
「ふぅー……メウラ、無事?!」
「あぁ、問題ない……くっそ、忘れてたなぁこれ」
「ミストイーグル対策は必須かもね。毎回来る度にこうじゃやってらんないし」
お互いの無事を確認し、セーフティエリアで休憩をしようとした時だった。
私達が駆け込んだ先のセーフティエリアには2名の先客が既に休憩をとっており、こちらを苦笑いしながら見つめていた。
「ぉあー……っと、失礼。煩かったですよね?」
「ごめんなさいー」
「あぁ、いえ。大丈夫ですよ。うちも普段似たようなものなので……」
1人は立ち上がり、こちらの言葉へと返答してきた黒いローブを着たファンタジーの魔術師然とした姿の若そうな男性。
短い黒の髪に、黒の目。これといった特徴的な外的要素もないため恐らくは人族だろう。
もう1人は、その後ろで焚火の近くからこちらを見ながらにやにやと笑っている黒髪長髪の、私と似た獣人族らしき女性だ。
イヌ科らしき耳と尻尾が生えているため、それに連なる何かの動物がモチーフなのだろう。
PvP関係についてはきちんと仕様を確認していないため、ダンジョン内でもPKを行えるのかどうかは分からないが……それでも警戒しておく分には損はないだろう。
「自己紹介をしときましょう。私はアリアドネ、狐の獣人族よ。そっちはメウラ。人族ね」
「……僕はバトルール、そっちの女性はフィッシュ。ここで会ったのも何かの縁でしょう、少し話しませんか?」
「私は良いけど……メウラ?」
「あー、そうだな。俺も問題ない」
薦められるまま、私達2人は焚火を挟む形で彼らの前に座った。
バトル―ルは虚空からティーポットとカップを人数分取り出すと、紅茶らしき液体をカップに注いで渡してきた。
「どうぞ、変なものはいれてないNPCから買った紅茶です」
「ありがとう。貴方達もここの攻略に?」
「えぇ、そうです。あぁ、でも……ボスエリアのような場所は見つけたんですが、追い返されましてね」
「追い返された?あー……」
ボスエリア……私が『白霧の森狐』と戦闘を行った神社のことだろう。
現在、あそこには私の許可が降りなければ辿り着くことは出来ない。
それにボスクエストを進めなければ他のプレイヤーが攻略したダンジョンと同じように、劣化ボスとも戦えないのだ。
「……何かご存じなんです?」
「えぇっと、そうですね……すいません。私が先日、ここのダンジョン攻略しちゃいまして。掲示板ってみます?」
「一応少しは」
「あぁ、じゃあ分かりやすいですかね。掲示板のダンジョン系のスレッドにダンジョン攻略関係のがあるんで……」
そう言いながら、私はウィンドウを表示させ掲示板のダンジョン関係……私が気になって読んでいたスレッドを呼び出し映し出す。
そこには攻略後、ダンジョンがどういう処理をされるのかというのが詳しく書き込まれており、私が情報を得たのもここからだ。