中々便利と言えば聞こえはいいだろうが、これはこれで『ダンジョンの私有化だ!』なんて言われそうな要素だ。
一応掲示板を覗いてみると、私と同じようにダンジョンを攻略ないしはボスと『対話』しているプレイヤーが既に複数存在しているらしく、それについても触れられていた。
彼ら曰く、ボスの素材自体は別段特別な魔術が創れるわけでもない、らしい。
次いで彼ら曰く、侵入出来ないだけで今まで通りダンジョン自体は探索出来るため旨味自体は減っていない、とのこと。
そして彼ら曰く、『対話』したボスに頼めば劣化している状態の複製品……ダミーのボスと再戦することが可能らしく、再戦が行えるエリア自体はプレイヤーの任意で設置する事が出来る、らしい。
「……ふぅん、ならこのままでもいいわけだね」
一番知りたかった私有化云々の話も、2番目の探索が出来るという所と3番目の劣化ボスとの再戦が行えるという部分が分かったら皆一応は落ち着いていた。
私も私であの『惑い霧の森』の劣化ボスとの再戦エリアを用意しておく必要があるのだが。
……でもあの狐、『改修が終わったら』とか言ってたよね?神社直すまでは会えないしお願いも出来ないわけか。
突然タスクが降って湧いてきたことに喜べばいいのか嘆けばいいのか分からない。
だが、『対話』を選んだ場合の明確なメリットが分かったのだ。その分、『討伐』を選んだ時のメリットがあまり分からないままになってしまったのだが……まぁ、何かしらあるのだろう。
掲示板にもあまり情報が出ていないため、はっきりとしたことは言えないが……次に私がダンジョンを攻略する事があれば考えてみても良いかもしれない。
「おーい、来たぞーってうわ、なんだこりゃ」
「あ、来た来た。ごめんね、今仕舞うから」
「は?この声アリアドネか?仕舞うって――」
メウラがドアをノックした後に部屋に入ってきたのが見えたため、『白霧の狐面』によって霧を操作し文字通り霧散させる。
掲示板を漁るのに夢中だったせいで霧を仕舞うのを忘れていた、失敗だ。
「……少し、聞きたいことが出来ちまったなぁ」
「大丈夫大丈夫、きちんと話すから。とりあえず座って……って、床は私の装備があるのか。適当に机にでも座って」
「了解。……正直色々聞きたいが、先にこっちの装備を見た方がいいんだな?」
「出来れば。結構無茶な使い方したから」
「……一応、全身渡してから1日程度しか経ってねぇんだがなぁ……」
なにやら遠い目をしているメウラに乾いた笑いを返しながら、私は『白霧の狐面』を横にずらし顔を晒す。
流石に来客が居るのに仮面をつけたままでは失礼だろう。
「何したらこんなんになるんだ?」
「ちょっと大きな狐のお腹の中から胃袋を突き破ったらそうなっちゃった」
「……あーうん。成程な。一応匂い以外は特に痛んでねぇから問題ねぇな。破損してるわけでもねぇ。脱臭系のアイテム自体はそこらの店に売ってるから買ってくるといい」
「オッケー、ありがとう」
どうやら破損なんかはしてなかったようで助かった。
流石に渡されて1日しか経っていない装備をすぐ壊してしまったら申し訳が立たない。
次いで、私のしている『白霧の狐面』についても話し、その効果を知ってメウラは何か遠い目をしていた。
効果については私の所為じゃないため、どうしようもない。
それを話すついでにボスクエストの話もしておいた。
私1人だけでは神社の改修なんて作業は厳しいが……生産勢の彼が居ればある程度は形になるだろうという判断だ。
メウラ自身もやぶさかではないのか、二つ返事で了承してくれた。
「あ、そういえば見せたい魔術って?」
「あー……色々見せられた後に見せるってのもあれなんだがな……よっと」
「……丸太?」
彼が虚空から出現させたのは丸太だった。
それも【始まりの平原】のはずれのほうに生えている木で、私も見た事がある所か木の枝を1本貰ったことがあるくらいには知っている。
それが一体どうしたのかと思えば、彼はこう呟いた。
「【ゴーレマンシー】」
瞬間、彼の触れていた丸太が変化を起こし、徐々に人型へと変わっていく。
最終的に出来上がったのは、メウラの腰辺りまでしか身長のない木の人形だった。
「もしかしてゴーレム?」
「あぁ、人手が欲しいって考えて作ってみた。レシピ自体はまだ掲示板に投稿してねぇが、この後するつもりだ」
「……いや、これはやめといた方がいいと思うなぁ私」
「あん?」
「確実に便利すぎるよ。これは。命令系統はどうなってるの?」
「声での認識だが……そんなにダメか?」
メウラが分かっていないように首を傾げているが、これに関しては私の所で留めておいても良い情報だろう。
「ダメ、というよりはそれを公開した後の事を考えた方がいいかも」
「公開した後っていうと……あぁ、成程。確かに簡単に制御できる人型ってのは危ないか」
「特に誰でも見れる掲示板ってのが悪いかなー。絶対悪用する人出てくるでしょ」
「やるとしたら少し変更した方がいいか……考えてみよう」
実際の所、【ゴーレマンシー】自体がどんな性能……どれほどまでに力を出力できるのかにもよるが、下手をすれば愉快犯が【始まりの街】や【始まりの平原】を占拠したり……なんてことも想像できる。
現状、あくまでも想像でしかないがあり得ないとも言えないのがMMOプレイヤーの実態なのだから仕方がない。
まぁ私も善人ではないため、後でそのままのレシピをメウラから貰うことにしたのだが。