--【酒気帯びる回廊】4層
という事で。
4層にある集落前の空中まで移動してきた私は、杯を片手に何処にアマゾネスが居るのかを探していた。
当然狙い撃ちするのが狙いではあるのだが……それ以前に、前回のように近接戦闘をしなくても遠距離攻撃のみで倒せる可能性がある為だ。
というのも、
「結局、【投擲】も【斧の心得】も自分で取っちゃったしなぁー……っと。見つけた。アレだ絶対。他の住民と体格違うし、私の方に視線向いてるし」
今の私は以前よりも遠距離火力が跳ね上がっている。
改めてラーニングし直した2つのスキルに、【投げ斧使い】。
そして強化された紫煙外装による強化も加えれば……少し試しただけでも、普通の『信奉者』が1回の投擲で消し飛んだくらいには火力が出た。
……きちんと準備、尚且つ煙質は……ちょっと考えた方が良いとは思うけど。でも近接戦闘になったとしても前回みたいにピンピンの状態にはならないはず。
『酩酊』をスタックさせ続けるダンジョンの中である為か、【葡萄胚】のストックはほぼ常にマックス。
コストを気にして戦う必要が無い、というだけでもこのダンジョンは私にとってはボーナスステージなのだ。
「さて……やってみよう」
杯の能力によって生成された半透明の酒を【酒精操作】によって空中へと引き上げつつ。
その形態を手斧へと変化させ、軽く構える。
次いで、周囲の酒気を固め2つの手斧状にした後、【疑似腕】にて同じように構えた後、
「えぇーっと……分裂能力を使うには……あ、思えば良いだけね。簡単で助かるよ」
強化前と違い、羽根を千切る等の動作無しで分裂効果をアクティブ化し。
私はその流れで残っている【葡萄胚】を全て消費し、手斧の与ダメージ増加効果も起動させた。
瞬間、私の身体全身から酒気のような……赤紫色の葡萄臭のする気体が放出され、手斧へと纏わりついていく。
……これ、多分敵性モブが近くに居る時に使っても結構効果ありそうだよねぇ。
私自身は使っている本人だからかあまり気にならないものの。
それなりに強い匂いが唐突に放たれる為に、マノレコのようなイヌ科の敵性モブなんかは一瞬どころか数瞬程度は鼻が使えなくなるだろう。
手斧形態で、【葡萄胚】さえあればいつでも使える能力である為に、結構軽率に使えるというのも良い。
「よし、それじゃあ一発」
言って、一息。
先程まで軽く構えていたその姿勢を、しっかりとしたモノへと整えた後。
私は未だこちらへと視線を向けているアマゾネスへ……酒好の女戦士へと手斧を投擲した。
瞬間、普段とは比較にならない程度には大きい空気の破裂する音と共に、2本の手斧と2本の酒気で出来た手斧……合計4本が飛んでいく。
与ダメージ増加効果が乗っているのは紫煙外装の手斧のみではあるものの、酒気で出来た方も方で、しっかりとスキルの効果が乗っている為に火力は出る。
酒好の女戦士は流石にまずいと思ったのか、凄まじい速度で飛来するそれらを空中で受け止めようとその場から跳躍し。
巨大な骨の大剣、そして彼女の周囲の酒気をも使い、巨大な盾を形成したものの、
「うわぁお」
そんなものが無いかのように、4本の手斧は空中を突き進み酒好の女戦士の身体を蹂躙していった。
だが、腐っても中ボス的立ち位置にいる敵性モブだからか、全身が血だらけになりながらもかろうじて耐える。
しかしながら、
「ま、君が耐えても集落の方が耐えられないよねぇ……」
4本の手斧が直撃した衝撃波によって、集落が破壊されていく。
その余波が空中に居る私にも来て一瞬バランスを崩しかけたものの……紫煙駆動すらしていない状態でここまでの火力が出るとは思わなかった為に、少しだけ内心冷や汗を掻いていた。
……アマゾネスは……うん、しっかり睨んでるね。
集落が破壊された為か、アマゾネスは先ほどよりも怒りが滲んだ表情を浮かべ、酒気を足場にこちらへと迫ってこようとしているものの……流石に初回よりもインパクトは弱い。
それに今回、投擲を防ごうとした為に彼女はその身1つで特攻を仕掛けてきている状態にある。
「ごめんねぇ……これ、戻ってくるんだよ」
言って、彼女から見えるように手斧を呼び出し。
軽く構え、手首のスナップだけで投げてやれば……先程程ではないものの、それなりの速度をもって手斧はアマゾネスへと飛んでいく。
普段ならば避ける事も、弾く事も出来たのだろう。
アマゾネスは避けようとして、一瞬体勢を崩してしまい、
「本当はもうちょっとちゃんと戦いたいんだけどね」
その身に手斧が直撃し、こちらに恨みを込めた視線を向けながら空中から堕ちていく。
次第に光の粒子となって消えていく彼女に少しだけ申し訳なく思いつつ、私はその後を追う様にして集落の方へと降りていった。
……これ、確実に怨念系の装備が作れるだろうなぁ。
討伐報酬と共に、『酒呑者』への挑戦権である酒戦士の鍵を手に入れたというログが流れたのを視界の隅で確認しつつ。
今回手に入れた物をどう扱うか、頭を回し始めた。