「これは……」
恐る恐る指で触れる。
すると、だ。何やら触れているような、触れていないかのような……曖昧な感覚が指先を伝う。
しっかりと指で挟んでみると、自由にそこから動かせる事に気が付いた。
「思ってたよりも……違うね
修得する前は、VRならではの思考操作云々を用いて操るのかと思っていたのだが。
どうやらそれよりももっと直接的で、能動的に動かす必要があるらしい。
インベントリ内から『薬草の煙草』1本と、『昇華 - 狼皮の煙草』を取り出し、それぞれ吸ってみる。
但し、肺に入れるというよりは煙草をふかすような吸い方で。
「あー成程。やっぱりここも違うんだ」
結論から言うと、どちらの煙草の煙も輝いていた。
しかしながら、魔煙術の影響か『昇華 - 狼皮の煙草』の煙の方は薄い緑色に輝いていたのだ。
それに『薬草の煙草』よりも強く輝いている。
……煙自体の力が可視化されてるって考えた方がいいかな。
試しに『具現 - 薬草の煙草』の方でも試してみると、こちらは薄い青色の輝きを放っていた。
「可視化されてるってのは色々と便利だけど……これだけ?」
不可思議な感触を楽しみながら、私は昇華と具現の力を持った煙を球体上にして集めてみる。
元が煙だからだろう。どれほど集めても重さ自体は発生せず、ただ輝きが強くなっていくだけだ。
……んー……これだけじゃない気がするんだけどなぁ。
ここまでの効果だったら、PvP用の情報収集程度にしか使えないだろう。
相手が吐いた煙を見て、それが魔煙術に関係しているか否かを判別できるのは大きい。
ここで、私の目が何かを捉えた気がした。
否、【観察】がそれを気のせいで済まさない。
私の掌……丁度、昇華の煙の球を触っていた方の手が少しだけ毛深く……まるで、獣のような様相に変化していっているのだ。
「へぇ」
僅かに頬が緩む。
試しに昇華の煙の中に一気に手を突っ込んでみると……一気に人の手から獣の手へと変化していった。
元の素材の影響だろうか、その手は人間の手の形状を残しつつ、長い爪や肉球なんかも発生しているようだ。
しかしその変化と共に昇華の煙の球の総量は見に見えるほどに減ってしまった。
「成程、どっちかっていうと今の本質はこっちかな」
煙の効果を余さずに使う事が出来る。
勿論、効果を発揮させるのには煙が必要である為に、使えば使うだけ減っていく。
しかしながら……これが出来るなら色々と悪さが出来そうなスキルだ。
何せ、デバフ効果を与える煙草を作ってしまえば、操作するだけで相手に任意のタイミングで数段重くなったデバフを与える事が出来るのだから。
無論、自身がその煙草を吸う必要がある為に、そこら辺の対策は必要となるのだが。
……そういえばきちんとスキルの詳細見てなかったな。
そこまで考え、私は【魔煙操作】の詳細も見ずに検証もどきをしていた事に気が付いた。
どう考えても先にそっちを確認してからやるべきだろうに。
少しだけ反省しつつ、手元で煙を適当な形にして遊びながら詳細を表示させる。
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【魔煙操作】
種別:汎用
熟練度:21/100
効果:煙草から発生した煙の操作権獲得
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「おぉっと。説明がほぼないパターンだった」
ここまで説明がない……というよりも、効果から読み取れる情報が少ないのも珍しい。
他のスキルと見比べてみても明らかに分かりにくいそれを、苦笑しつつ一度消す。
「どうしようかな。これ【煙内察知】は取らずに他のにしようか……」
想像していたモノとは違う使い方をする以上、あまりシナジーを発揮するようなものではないだろう。
もしも今後、追加能力を得たタイミングで思考操作などが行えるようになったなら……その時はその時だ。
……って言っても、索敵かぁ。
正直、要らないのでは?と思ってしまう。
「だってこれ、上手く顔や頭に当てれば……」
昇華の煙を顔に近づければ……その分、犬科のマズルに似た部位が。
頭に近づければ、耳が生えてくる。
当然、生えた部位はしっかりと機能しており……今も部屋の中に充満している匂いを細かく判別する事も、自身の着ている服から発されている衣擦れの音も聞こえてきていた。
煙の総量については……それなりに減ってはいるものの。
それでもまだ1本しか吸ってはいない。コストパフォーマンスの面から見たら最高に近いだろう。
「うん、要らないなコレ。どっちかって言うと、これを活かせる何かを取った方が良さそうだ」
煙に関係するスキルを取るにしても、タッチの範囲……素手の届く範囲で使えるものが良いはずだ。
……メウラくんに少し話を聞いたり……掲示板とかで調べてみようか。
「ま、とりあえず消耗品の補給してから……ダンジョン攻略かな。ボス攻略が出来れば……MVP報酬とかで強化される可能性もあるしね」