なんでも屋『エリクシル』のアジトを、改めてタムは見回した。
上にも下にもごちゃごちゃと仕掛けがひしめいている。
上のほうに部屋らしきものを認めた。
そこからパキラが落ちてきたのだろう。
よくどこも壊れなかったものだと思った。
アジトの中は、外のようにぼんやりと明るかった。
明かりを中に取り入れているらしい。
「タム」
静かに呼びかけられた。
「アイビー、さん?」
アイビーはうなずいた。
「これから壊れた時計も含めて、登録認証をします。こちらへ」
アイビーは音も立てずに歩いた。
タムは通路を歩く。
橋のような場所も上のほうにあった。
意外とこのアジトは大きいのかもしれない。
タムは探検したくてしょうがなくなった。
「おいこら」
いつものネフロスの声がする。
「下にもあるんだ、上ばっかり見てると落ちるぞ」
タムはあわてて通路を見渡した。
自分の立っている場所が、きぃ、と、音を立てた。
長くはないが、橋らしい。
タムはとんとんと橋を渡って、アイビーについていった。
ネフロスとパキラが続いた。
アイビーが、右へ左へと曲がり、
タムはそれについていく。
ことことことと何かの仕掛けの音がする。
遠く下のほうで、なんだか、風と水のような音もする。
扉のある部屋ない部屋、
アイビーは奥を目指したらしい。
そして、奥のとある扉の前で、
アイビーは紐を引っ張った。
上のほうに下がっている、ベルが音を立てた。
リンリンリン。
澄んだ音色だ。
「クロ」
アイビーが呼んだ。
扉がカチカチと音を立てた。
そして、中から扉が開いた。
緑色のチェックの柄のバンダナを巻いた、
細身の青年が顔を出した。
黒いジャケット、黒いレザーパンツだ。
ロックでもしそうな人だなとタムは思った。
「クロ、登録お願い。この子」
「へいへい、使える人手だといいっすね」
クロと呼ばれた男は、扉の中から、ちょいちょいと手招きした。
「僕?」
タムが問い返す。
「そうだ、エリクシルに登録すっから、こっちこいや」
タムは扉の中に入った。
扉の中は、大小さまざまの仕掛けと、
奥に泉が湧き出していた。
泉は仕掛けの隙間を通って、下へと落ちていく。
「そこの泉に壊れた時計を浸して、自分の名前を登録するんだ」
タムはクロの説明にうなずいた。
タムは仕掛けの隙間から、泉へと行く。
大きなジャケットのポケットから、壊れた時計を手に取り、泉へと沈める。
ぽう、と、泉が緑色に輝いた。
しばらく輝き、泉はまた、元のように戻った。
「へぇ、アジアンタムで、タムか。俺のように略してるんだな」
後ろから、クロの声がする。
タムは泉から壊れた時計をポケットに戻すと、クロのほうに近づいた。
「名乗って…ませんよね?」
「ここに出てる」
クロはタムより少し高い目線のところにある、
平べったい石を示した。
いろいろな名前が書いてある。
「ここに追加されたのが、お前の名前だろ」
クロが指差したそこには、確かにアジアンタム、タム、と書いてある。
「俺は、これ」
クロロフィタムと、クロという名前が並んでいる。
「クロロフィタム、だからクロ。よろしくな、タム」
クロが人懐っこい笑みをして手を出した。
タムはまた、握手した。
「俺は水の調達と、登録係を兼任してる。ま、水がほしくなったら一声かけてくれ」
「水」
「ん、部屋に水を調達するギミック動かすからな」
「部屋?」
「あ、そういえば部屋はまだなんだな」
「部屋があるんですか?」
「扉の向こうでアイビーたちが待ってるだろ。多分連れて行ってくれるさ」
クロはふと、石盤を見た。
「ネフロレピスにネフロスが追加されてるな。誰が略したんだ?」
「…それ、僕です」
「へぇ、あいつがとうとう略されたか。お前もなかなかやるな」
クロはにやりと笑った。
「あいつ、略するな、が口癖だったんだぜ」
タムはなんだかすごいことをしたのかもと思った。
「さ、このアジトは広いぜ。ちゃんと案内してもらってな」
クロに見送られ、タムは扉を開けた。
アイビーたちが待っていた。