「もう気が付いていると思いますが、ザブの犯行がわからないように、画像を細工したのは私です。身内の恥を隠したくてそうしたのですが、こんなにあっさりバレてしまうとは……」
「はあ」
「許して下さい、ザブは不幸な子なんです。子供の頃、幼くして両親を亡くした話しはしましたよね。両親を失ったザブは引き取り手が誰もいなくて、家庭の温かさを知らずに育ちました」
安崎さんは私をチラリと見ると、ウーロン茶を口に運びました。
「そして、中学を卒業すると家出をしましてね。でも、誰も探すものもいなかったんです。そして空き巣をしている所を警察に捕まって、再会したのですよ。その後も悪い仲間と手を切れず……」
「そうですか」
私は、少しザブさんに同情していました。
「それが先日、映像配信の仕事をすると言って尋ねて来たのです。私は、嬉しくなりましてね、準備費用を全部出してやりました。今度こそ真面目に働くと、思っていたものですから」
「わかります」
「私は、映像編集会社を運営していたので、ザブの映像の編集を手伝っていたのです。そしたら廃墟を荒らす映像、そして自宅での尋常では無い怪現象です」
「それで私に」
「はい。知人の紹介で映像を見てもらって、どれだけこの映像のことがわかるのか試しました。驚きました。私が、必死でわからないようにした細工を、いきなり言い当てられました。何か隠していますよね。と、」
「おめがねに、かなったと言うわけですか」
「ははは、そうです」
「あまり良い気分がしませんけど……」
「先生! 先生の目から見て他に何か気が付いていることはありますか」
このタイミングで先生と言われたら、せっかく気分を悪くしていたのに、悪い気分が吹っ飛んでしまいます。
「まずは、あの廃墟にいた髪の長い少女がまだ、あの部屋にいます」
「しょ、少女……」
私が少女といった瞬間、安崎さんの顔色が変わり、唇が小刻みに震えました。
「そういえば、あの白いぬいぐるみはどうしたのですか」
「あー、あれですか。廃墟から持ってきたものは、全部売ったと言っていたのですが、あれだけなぜか買い戻したようですね」
今度は、私が青ざめました。
ザブさんの意志でおこなった、行動では無いということでしょうか。
あれは、少女のお気に入りなのでは無いかと、直感でそう感じました。
「あのー、小さな鏡がありましたよね」
私は、言い知れない恐怖で、全身に寒気が走りました。
何かがおかしい。
私は、また違和感を覚えています。
いったい、何がおかしいのでしょうか。わからないから、余計に恐いのです。
「わかりませんねえ」
私は机の上のノートパソコンに映像を出しました。
チェストの上の小さな鏡。
「これです」
「あー―、これですか」
安崎さんは少し上を見上げて、何かを思い出したようです。
「そういえば、全部車から荷物を下ろした後に、車の中に残っていたものがあったといっていました。二階の机の引き出しにあった物とか言っていたような気がします。それじゃ無いでしょうか」
あー、まただ全身に悪寒が走ります。
私の直感が危険信号を出しています。
「あのー、ザブさんが異常な行動を取らないように、しっかり見て上げて下さい。なにか不自然な行動を起こすかもしれません」
私はこの時、何かの異変を感じていたのかもしれません。
でもそれが何だかわかりません。
「は、はあ」
安崎さんは気のない返事をしました。
病院にいるのだから、大丈夫と言うことでしょうか。
私も具体的に何が起るとも言えないので、これ以上は言えませんでした。
まあ、病院にいるのだから大丈夫でしょう。そう言い聞かせました。
私は、安崎さんと別れると急いで自宅に帰りました。
それは今日、安崎さんと話をして感じた違和感の原因を知る為です。
部屋に入ると、パソコンが立ち上がるのが、いらいらするほど遅く感じられました。
パソコンが立ち上がると、三枚目のディスクをセットして画面が出るのを待ちます。