邪神教信者一同がももこへ誓いを立ててから一週間が経った。
あの日から、信者達の愛情が一層深まっていた。
しかしそれは当然邪神としてではない。
ももこをももことして、愛していた。
邪神のみが開くことのできる、地下二階へと続く扉。
初代邪神が作った様々な道具が保管してあるとされているが、ついに扉が開かれることはなかった。
扉を開くことによって、ももこが邪神である最後の証明を見せることも、初代邪神の道具を見ることも、邪神教には必要がなくなったからであった。
この一週間、ももこにとって平穏な日々が戻ってきた。
言葉の勉強を続けたり、この世界のことや、基礎的な教養を学んでいた。
相変わらず屋敷の外に出ることはなく、ももこにとってそれだけが唯一の不満であったものの、何不自由ない暮らしが続いていた。
「ではももこ様、午前のお勉強はこの辺にしておきましょう。昼からはまた別の白装束が参ります」
「うん! 白装束さん、ほんまにいつもありがとうね。白装束さんの教え方ってほんまに分かりやすいわぁ。あ、そや。なぁなぁ、ウチな、前から白装束さん達みんなの名前が知りたかったんやけど……ほら、みんなフード被ってしもてるから誰が誰かぱっと見ただけやったら分かりにくいやん? いつまでたっても白装束さんっていうのもなぁって思ってたん」
「めめめ、滅相もございません! 邪神教内では我らは等しく白装束で結構でございます!」
「むぅー……じゃあ次はいつ来てくれるん? この前来てくれたんは一ヶ月くらい前やんな? 次も一ヶ月先なん?」
そうももこに言われ、白装束は思わず言葉に詰まってしまった。
まさにももこの言う通り、この白装束がももこの教師役をしたのは一ヶ月前のことであったし、次回の予定も一ヶ月先であったからだ。
「そ……そうでございますが……ももこ様、覚えておいでなのですか?」
「うん、当たり前やん! みんなのこと覚えてるで。ウチのところに来てくれる順番とか決めてるん? あ、でも昨日来てくれた人は、ほんまは一昨日くらいかなぁって思ってたんやけど順番入れ違っとったね?」
「も、ももこ様……っっ!」
ももこの言葉で白装束は確信した。
ももこは白装束達一人一人を見分けている。
体格の差はあるが、全員が常にフードを被り表情を隠しているにもかかわらずだ。
昨日ももこのところへ来た白装束は、一昨日体調を崩してしまいシフトを振り替えたのだ。
白装束は確信したものの、それをももこに確認せずにはいられなかった。
そして恐る恐る尋ねてみる。
「ももこ様……ももこ様はまさか、白装束全員の見分けがつくのでございますか……?」
ももこは質問を受けて、きょとんとした顔をするが、すぐに満面の笑みをもって答えた。
「えへへ、そんなん当たり前やん! でもみんな同じ格好しとるから、ちょっと分かりにくいこともあるけど、みんな覚えとるよ? あ、なぁなぁ、あんなぁ、ミモモおばあちゃんに頼んでココッピのお菓子作ってもうてん! 白装束さん、ココッピ好きやったやんな? 今から一緒に食べへん?」
やはりももこは分かっていた。
しかも自分の好きな菓子まで覚えていてくれたのだ。
白装束の感激たるや、口を開けたまま時が止まってしまう程であった。
その後白装束は、ももことおやつタイムを楽しんだ後、走って大僧正の元まで駆け付けた。
この件は至急報告しなければならない程に重大な案件であった。
すれ違う白装束達が何事かと振り返るほどに、全速力で走った。
「なんと……! そ、それは本当なのか?」
「はい、大僧正……本当ですっ! ももこ様は……ももこ様は……! はぁ、はぁ……」
「なんという深き慈愛に満ちているのだ……ももこ様のお心は……! 深い……深みに達しすぎて極みに──? お、おい、どうしたのだ? 体調でも悪いのか?」
大僧正に報告にやってきた白装束は、苦しそうに胸をおさえて蹲っていた。
「い……いえっ……はぁっ! はぁっ! は、走ってここまで……来たからでしょうか……」
「それはいかんな。他の者への報告は私がやろう。お前はそこのソファーで少し休んでいなさい」
「あり……がとうございます……はぁ……はぁっ! ももこ様……キュンキュン」
「ん? 何か申したか?」
「は? いえ、何も? はぁ、はぁ……ではお言葉に……甘えさせていただきます……」
ももこが全ての白装束を見分けている。
更には一人一人の性格や好きなものまで把握している可能性もある。
このことは大僧正によって瞬く間に邪神教徒全員に広められたのだった。
そしてこの件を発端として、邪神教徒達に変化と、大きな事件が起こるのであった。