-Side『フローライン』
「-……、……っ、……っ!?」
ほんの直前まで深い眠りの中にいた彼女は、ふと身体に不自由さを感じゆっくりと目を開けた。すると、目の前では異常な事態が起きていた。
「……っ!?…っ、っ~~」
「…っ!、っ!」
最愛の両親は部屋の隅で特殊な『拘束具』で身体と口を拘束され、喋る事も身動する事も出来ずにまるで物のように床に転がっていたのだ。
「…っ!?」
彼女は二人を助けようとするが、自身も簡易ベッドの上で手足と口を拘束されている事に気付いた。
「…お。グッドモーニング~」
「……っ!?」
そんな彼女の耳に、軽薄な男の声が聞こえた。
「…やあ、お嬢様。夜分に失礼しま~す」
背後から現れた男は、とにかくいやらしい笑みを浮かべていた。それを見た彼女は、何とか逃げ出そうとするが拘束は外れなかった。
「無駄だよ。…なにせそいつは『特別製』だからな」
「-チイッス、お届け者で~す」
ニヤニヤと笑う男に彼女は血の気が引いた。そんな中、更なる恐怖が起きた。
「…っ!?」
なんと、すやすやと眠る一緒に来た年端もいかない妹と普段身の回りの世話をしてくれるメイドや、いつも美味しい料理を作ってくれるお祖父ちゃんのようなシェフに教育熱心な執事までもが、大勢の男達によって次々と今いる部屋に運ばれて来たのだ。
「…ご苦労様~。んじゃ、『荷物』置いて集まってくれ」
『了~解』
男達は両親の近くに妹と使用人達を置いて行き、そして彼女の元に集まった。
「……っ」
その下卑た表情で、彼女は嫌でも察してしまう。『自分がこれから何をされるのか』を。
「…にしてもお前、『太っ腹』だな~」
「…ああ。まさか、俺らを招待してくれるとは」
「…今まで一緒に頑張って来た仲だろう?当然さ」
仲間の最低な称賛に、男はニヤニヤしながら返した。
「…じゃあ、『始めよう』か」
『…ああ』
男の合図で、仲間達の手が一斉に彼女の薄く高級な寝間着に伸びた。
「-っ!?」
彼女は恐怖は余り目を閉じた。…だが、次の瞬間。
『-ぎゃっ!?』
何故か男達は悲鳴を上げ、直後に倒れる音が複数聞こえた。
「……?」
彼女は恐る恐る目を開ける。すると、男達は気絶し床に倒れていたのだ。そして、良く見るとマットの周りに黄色いバリアが展開していた。
「-怖がらせてしまい、申し訳ありません」
その状況にぽかんとしていると、主導していた男は突然平謝りしてきた。
「…っ!……あ、貴方は一体?」
直後、身体と口の拘束が外れたので彼女は不安になりながら聞く。すると、男…いや彼は先程までとは違う営業スマイルを浮かべた。
「私は、帝国政府より派遣されました『特別救助部隊』の者です」
「…っ!ま、まさか我々を助けに来てくれたのかっ!?」
「アイリスっ!」
「っ!お父様っ!お母様っ!」
自由となった両親が駆け寄って来たので、彼女もマットから立ち上がり走り出した。
「…っ!良かった」
「…さ、皆様。このまま部屋を出たら、奥の『ドア』の先にある『カプセルベッド』にお入りください」
「…ありがとう。このお礼は必ず…」
「…本当にありがとうございますっ!」
『ありがとうございます』
「…せ、せめてお名前を……」
「…申し訳ありません。私は『名乗る事が出来ない身』なのです。
それに、私はあくまで『手伝い』を…貴女達を救う計画を立てた人物の協力者でしかないのです。
ですから、お礼と『貴女のそのお気持ち』は『彼』に…『キャプテン・プラトー』にお伝えしておきましょう」
「…キャプテン・プラトー。その方が…」
「アイリス、早くっ!」
「はいっ!」
彼女はその言葉を熱い思いを込めて呟いた。すると、父親が慌てて呼んだので直ぐにその元へ駆け出した。
-これが、新たな縁になるなんて事はこの時はまだ誰も知る由はなかった。
○
-っ!おお…。
翌日のお昼頃、事務所で『彼ら』と顔を合わせた俺は内心で驚く。なにせ、外見も行動パターンも完璧にトレースしていたのだ。
『…良いな~』
先に起きていた『コバンザメ』達は、その清々しいまでの『笑顔』に羨望の眼差しを向ける。まあ、良いように勘違いしているが彼らはこの状況が滑稽に見えるから、素で笑っているのだ。…『素敵』な性格をしているな。
「-っ。お、『イイカオ』しているじゃないか」
責任者の男も完全に騙されているようで、ゲスい笑みで彼らを出迎えた。しかし、直後男は顔を引き締めた。
「…全く、俺もそんな表情してみたいが『まだ問題』が解決した訳じゃない。
引き続き、夜は厳重警戒だ」
「…奴らはなんか喋りましたか?」
すると、『コバンザメ』の誰かが訪ねた。…すると、男は首を振る。…ん、なんか嫌な予感が。
「…既に起きているが、『怯えるばかり』で何も言わねぇんだよな……。…だから、『ちょっとハード』なやり方で聞いてみる事にする」
男の顔には『覚悟』の気持ちが宿っていたのだ。そして、俺の直感通りの言葉を男は口にした。
『-っ!?』
その時だけは、室内の人間の気持ちが『驚愕』で纏まった。
「…ただ、問題は『俺は少々不得手』だという事だ。下手すりゃやり過ぎて『星』にしちまい兼ねない」
…だろうな。てか、自覚あったんだ。
「…だから、『得意なヤツ』がいたら手伝ってくれないか?」
『……』
男の頼みに、部屋の中の誰も応じる事は出来なかった。…これは、『チャンス』かも知れない。
何とか打開策を生み出そうとしていた俺は、『その情報』を聞いて『賭けて』みる事にした。
「…ダンナ、手伝うぜ」
「っ。サンキューな…。他には居ないか?」
『……』
手を挙げた俺に男は礼を言った。そして、男は再度問い掛けるが『彼ら』さえも手を挙げなかった。…まあ、『任務以外の事は絶対にやらない』人達だから当然だが。
「…仕方ない。じゃあ、二人で-」
「-ちょっと良いか、ダンナ。…実は、『使えるかも知れない』ネタがあるんだ」
男の言葉の途中で、俺は『耳寄りな情報』を口にした。
「…なんだ?」
「…『元々此処に居る連中』に関する情報だ」
『-っ!?』
「…まさか、奴らの手を借りるってのか?」
当然だが、男と『コバンザメ』達は難色を示した。
「…まあ、最後まで聞いてくれ。
確かに、『アイツら』に協力を頼むって事は『口を割らせた瞬間にバレる』リスクがある。…だから、最初にこっちの『言いなりにしちまうのさ』」
『……?』
「…どうやってだ?連中が素直に……『ネタ』を使うのか…」
コバンザメ達は頭に疑問符を浮かべるが、男は俺が言わんとしている事に気付いた。
「その通り。…しかも、『ネタ』の信憑性はかなり高い。
さて、どうする?」
「…後々の事を考えても役に立つな。
全く、お前『あの人』並みに良い頭してじゃないか」
男はニヤリとしながら称賛した。…『あの人』ねぇ?
「…分かった。そっちはお前に任せる。
あ、一人で大丈夫か?」
「(…おわ。またもや意外な一面を。)…なら、『昨日目的を達成した』奴らに協力して貰おうかな?」
俺は目を細めて『彼ら』…工作員達を見た。
『…しゃあねぇな~』
彼らは『やれやれ』といった感じで応じた。…いや、ホント『優秀』な人達だ。昨日初対面の俺の『指示』をちゃんと聞いてくれるのだから。
「…良し。なら、問題はないだろう。
それじゃ、行動開始だ」
『応っ!』
その言葉で全員が事務所を出た。…さぁて、まずは同じエリアを担当しているあの二人だな。
「「-…どうする?」」
持ち場に移動する途中、自然と集まった工作員チームを代表し一番最初に合流した二人が聞いて来た。
「…『これ』を使ってくれ」
俺は配布された通信ツールに『偽装した』モノで、全員の『専用ツール』に『ネタ』を転送した。
『……』
それを見た工作チームは、一瞬ぽかんとした。しかし、直後には感心した様子で『それ』を記憶する。
「…どこで、これを?」
「…『此処に来る前に仲良くなった人達』に確認したら、喜んで送ってくれたよ。
彼ら、『相当目立った』ようだな~」
「…人脈半端ないな、お前……」
「…『いろいろ聞いて』いたが、どうやって『仲良く』なったんだよ?」
すると、別の二人が素の雰囲気で聞いて来た。
「そりゃもちろん、『実力』で」
『……』
「…じゃあ、頼んだぞ~」
唖然とする彼らを他所に、俺はさっさと持ち場に向かった。