「ー…マ……。マ……ー。マス……」
まどろみのなか、優しい声と優しい振動を感じた。…んあ?
「…あ、おはようございます。マスター」
ゆっくり目を開けると、青い髪に金の瞳の美女…この船『カノープス号』の女神にして最も信頼の置けるクルー…。すなわち、ガイノイドのカノンが俺の顔を覗き込んでニッコリと笑っていた。
「(…朝から、良いものが見れたな。)…おはよう、カノン」
「はい、おはようございます。マスターオリバー」
俺はベッドから起き上がり、時間ピッタリに起こしてくれた彼女に微笑みながら挨拶する。すると、彼女は顔を離し背筋を伸ばして改めてキチンとした挨拶をした。…さて、それじゃあ『日課』をしますかね。
俺は部屋に併設されたシャワーで眠気を取り、訓練室で朝稽古をした。…そして、それが終わると身体を清潔にし身だしなみを整え『ダイニング』に向かう。
「ーどうぞ、マスター」
そこでは、なんとカノンが作った『朝ご飯』を食べる事が出来た。…いや、しかし有能だよな。
ちなみにだが、ご飯や掃除洗濯は当番制にしている。…まあ、何でも彼女に任せっきりは良くないと思い提案したのだが最初は若干寂しくしていた。恐らく祖父ちゃんがあまりにも『だらしなかった』からだろう。ホント、しょうがない『先代』で申し訳なく思う。
ーそして、彼女と
「ーハイパードライブ。終了まで、残り10。
9、8、7、6、5、4、3、2、1、0」
直後、通常空間に戻り周辺をチェックする。…おお。
「…綺麗ですね」
俺とカノンは揃って、モニターに映し出された『青い星々』を見た感動した。
「…流石、『蒼の銀河』と呼ばれるだけはあるな」
ー『ブルタウオウ』。…その星系の特徴は、全ての惑星に『広大な水域』がある事だ。人口の一番多い首都惑星の『ファストツレフ』でさえ7割が水域なのだから、他の都市惑星は殆どが水域になる。故に、ブルタウオウは『蒼の銀河』と呼ばれているのだ。そして、この星系にも勿論『12の獣』の一つである『水中専用の船』が眠っている。…のだが、イエロトルボから二つ隣の此処に真っ先に来た理由は他にもある。それはー。
「ー…良し。撮影も済んだし、第三都市惑星『セサアシス』に向かおう。…確か、『迎えに来てくれている』んだったな?」
「はい。現地の『警備隊の責任者』の方との待ち合わせ時間は、帝国時間で後20分程です」
念のためカノンに確認し、そして『セサアシス』の宇宙港に入港してチェックと補給を済ませ、俺は船を降りた。…さて、確か軌道エレベーターに……?
軌道エレベーターに向かっていると、ふと誰かがこちらに近付いて来るのを感じた。
「ーねぇ、そこのお兄さん。ちょっと良いしら?」
…その女性は、『祖母ちゃん』を若くした感じだった。
「…亭主が居るのに『誤解を招く発言』は控えた方が良いよ?
ーカーリー『従姉さん』」
オレンジの髪にこの常夏の惑星に在住している人らしい小麦色の肌の女性に、俺は言葉とは裏腹にニッコリと笑った。
「…うわ、相変わらず可愛くないわね。
ー久しぶりね、オリバー」
その女性も、言葉とは裏腹の笑顔で応えた。…彼女は俺の『母方』の従姉にあたる人だ。
「…いや、それにしてもおっきくなったね~?えっと、最後に会ったのが…ー」
「ー…カーリー従姉さんが10になったばかりの長男の子連れて帰省した時だから、約5年振りだね」
「…ホント頭良いわね……。……っ、あれ?オリバー、アンタ…」
感心していた彼女は、俺を見て驚愕した。
「…正解。『無重力酔い』は治療済みさ」
「…やっぱり。てか、いつの間に?というか、報告をー」
「ーあ、居た居た。カーリー急にどうしたんだ?」
彼女に詰め寄られていると、奥から日焼けした屈強な男性がやって来た。…『あの人』か。
「…あ、ごめんなさい。ちょっと彼を見掛けたので」
「…?…ああ、故郷に居る親戚の子か。…あれ?……ー」
ふと、その男性は時間を確認した。そして、直後に俺をじっと見て来た。
「…ど、どうしたの、アナタ?」
訳が分からず彼女は混乱する。…まあ、『二重の意味』で身内だし良いか。
即座にそう結論付け、俺は彼…『責任者』に敬礼する。
「-初めまして。帝国政府より派遣されて来ました、『特務捜査官』のオリバー=ブライトと申します」
「…長旅ご苦労。私はセサアシス警備隊隊長、グラハム=レーグニッツ少佐だ」
「はい、宜しくお願いします少佐。『かの』レーグニッツ家の方にお会いできて光栄です」
互いに敬礼し、そして固い握手を交わす。…そう、従姉さんが嫁いだ先は代々警備隊の隊長を輩出してきた由緒正しい『国家公務員』の家だったのだ。
「はは、ありがとう」
「…?…?…?」
そんな彼女は、旦那と俺とのやり取りを混乱しながら見ていた。
「…いやはや、本当に『最近』人が居なくて良かった」
「…どうやら、かなり深刻な事態ー」
「ーちょっと待てぃ…。説明してくれるわよね…?」
「勿論。…で、少佐さんからはどこまで聞いてるの?」
「…私は、帝国政府から『今回の騒動』を解決する『エージェント』が来るとしか……。…嘘でしょ……」
「-はい、これ見て」
「………」
俺は『例のモノ』を見せた。すると、彼女は唖然とする。
「……何時から?」
「…一週間くらい前かな?ほら、ホワイトメルで海賊の襲撃があったでしょう?…あれ、実はー」
彼女の質問に、俺は自らを指差した。
「…マジで?」
「…ちなみに、つい先日起きたイエロトルボの事件も彼の尽力で事なきを得ている。
ーありがとう、同志を助けてくれて」
「恐縮です」
「…私の知らない間に、可愛くない『弟』が旦那と『同じ人種』になっている?
正直、キャパオーバーなんですけど…?」
再び固い握手を交わす横で、彼女は頭を押さえていた。
「…あ、ちなみに今俺が言ったのは『第三種機密事項』になるから『家族を含めた』第三者には口外しないでね」
「……。…そんな事、言ったて信じる人なんてー」
「ー確かに、『普通の人』に言ったところで笑われるだけだけど、例えば『今この星を荒らしている連中』に『従姉さんの情報込みで』知られたらどうなるだろうね?」
軍人の嫁にも関わらず危機管理能力の足りてない彼女に、やや低い声で忠告した。
「………」
すると、ようやく理解した彼女は真っ青になった。
「…はあ、だから待っていろと言っただろうに……」
すると、少佐は苦言を呈した。
「…どうやら、従姉がご迷惑をおかけしたようですね。『祖母』と『叔父』に代わり謝罪させていただきます」
「…っ!?」
俺は少佐に深く頭を下げた。多分だが、彼女が『わがまま』を言って彼が付き添う形になったのだろう。…なので、先程挙げた『二人』に代わりに説教をする。
「…はあ、ホント昔からカーリー従姉さんは成長してないね?『二人』にも、良く『そのはらぺこボアみたいな性格を治さないと、将来困るぞ』って言われてたよね?
なに『防衛隊の責任者』連れ出してるの?今、どれだけこの人が忙しいか知ってるの?『こんな事』に時間を割いてる余裕なんてない無いんだよ?
軍人の嫁になったんだから、『それくらい』の配慮が出来ないでどうするの?」
「…っ~~~」
すると、いい歳した彼女は僅かに泣き出した。…はあ、まあ恐らく来た理由はー。
「ー……だって、…『あれだけの事』が起きてるのに、…『だったの一人しか』派遣してこなくて。…それで、頭来てそいつに……ー」
「ー『八つ当たり』しようとした訳だ。…はあ、『人情家』のこの人が『ここまでの行動』を取るなんてね。
どうやら『相当に危ない』状況のようですね?」
「…ああ。しかし、流石は親族だけあって彼女の性格は熟知しているようだね?」
「…まあ、昔は良くフォローしてましたから。…はい、これ使って」
俺は涙を流す彼女に、俺は圧を解いてハンカチを差し出した。
「……ありがとう」
「…大丈夫だよ、『カーリー姉』。さっき少佐さんが言ったと思うけど、俺は直近で起きた大事件を解決に導いてる。
だから、『戦艦』に乗ったつもりでいていいよ」
涙をぬぐう彼女に、俺はあえて昔の呼び方と『良く出した例え』を使い、彼女に宣言した。
「…ホントに可愛くない…ううん、『頼りになる-弟-』だ」
彼女はニッコリと笑い、昔と違い背を伸ばして俺の頭を撫でた。
「…さて、それじゃ早速『案内』しよう。あ、君はー」
「ー分かっます。…それに、『頼もしい援軍』も確かめた事だし大人しく帰りを待っています」
「…全く。私のよりも彼を信頼しているとはね。…少し、羨ましいよ」
「…恐縮です」
こうして、俺達三人は『仲良く』起動エレベーターに乗り『窮地に立たされた』星へと降りたのだった。