ー…はあ、ようやくか。
現場の復旧作業に従事していた俺は、『トラ』をオートパイロットにして操縦席を立った。
『……っ』
『…彼が……』
正面のモニターに映っているであろう俺に、視線が集中した。
「初めまして。イエロトルボ政府の皆様と、エシュリーングループCEOアストレイ様。
私は『カノープス号』船長、キャプテン・プラトー三世です」
『……』
改めて名乗ると、政府の重役達は再び気まずそうにした。
「…まあ、正直色々言いたいですが殆どは閣下が代弁してくださったので政府の皆様には私からは特にありません。
ーですが、アストレイCEOにはどうしても一言言いたいので閣下に無理を言ってこのような場を設けさせて頂きました。
閣下、誠にありがとうございます」
『なに、出向いた労力に比べれば微々たる物だ。それに、何よりも君が-適任-だと思ったからだ』
「……。…では、手短に済まさて頂きます
ー『三度目は無いと思え』」
『………、…承知、した……』
俺の『本気』が伝わったのか、彼は青ざめた表情で返事をした。
「(…はあ、スッキリした。)では、復旧作業が残っていますので失礼します」
『頼んだ、同志プラトー』
そして、通信は切れ俺は操縦席に座りオートを解除する。
『ーこちら、帝国軍高速輸送船-スピドルグ-です。カノープス号応答願います』
直後、『翼』を運んで来てくれた高速輸送船から通信が来た。
「はい、こちらカノープス号です。状況はどうなりましたか?」
『現在、プラント職員は全員地上船にて病院に搬送完了。
地上警備隊、及び防衛隊隊員は残り一割で全員搬送完了。
傭兵の方々は、間もなく完了します』
「了解しました。…本当にありがとうございます」
実際、彼らが『翼』を運んで来てくれたおかげで作業はかなり捗っているし、搬送効率を上げる為に…何より人前に出せない『翼』の代わりにピストン輸送までやってくれているのだ。
『いえ。…貴方の手伝いが出来て光栄です、キャプテン・プラトー』
するとモニターに表示された輸送船の船長は、物凄く瞳をキラキラさせながら言った。…多分、この女性も『同好の士』なのかな?
『…それでは、引き続き搬送作業を行います』
「お願いします」
ハッとした船長は、やや照れながらそう言い通信を切った。…さて、頑張りますかー。
ーそれから、休憩を挟みながら帝国から派遣された特大重機を持つ複数の企業と共に、復旧作業に勤しんだ。
そんな彼らと俺が組んだ事で、凄まじい急ピッチで『プラント周辺』の復旧作業は行われた。…そう、実はプラントは全くの無傷だったのだ。まあ、流石にそこを『ケチッた』ら死活問題だろう。ただ、そこに予算をつぎ込んだ結果他が疎かになってしまえば元も子もないんだけどな。
…そういえば、『先生の一人』が良く『守りと攻め、二つ揃って初めて-難攻不落-になる』って言ってたけど、ようやくその意味が理解出来たから、まあ『俺にとって』は今回の件は『意味』のある事だったのかもなー。
◯
ーそして日にちは流れ、ファストフラシー来て4日目の昼頃。
「ー…あふぁ……」
俺は眠気を堪えながら記念公園に来ていた。その理由は旅立ちの報告ではなく、復旧作業の間簡略化していた『日課』の『正式バージョン』をやりに来たのだ。
(…いや、丁度良い場所があって良かった)
俺は肩に掛けた細長いバックからトレーニング用のロッドを取り出し構える。
「…ふっ」
まずは、前に向かって突く。…うん、ちょっと遅くなってる。
「…ふっ、…ふっ」
鈍った感覚を修正する為、最初よりも疾く突き出す。…もうちょい、かな?
「…ふっ、…はっ、…せいっ(…うん、良いな)」
どんどん感覚が戻るのを感じ、俺は背筋を伸ばした。
「『カウント・セット』」
すると、ホログラムタイマーが顔の右側に展開した。
「『オートスタート』」
続いて、画面に『Ⅴ』と表示され直後カウントダウンが始まった。その時には既に、俺は準備を終えていた。
『GO!』
そして電子音声の合図と同時に、高速の連続突きを目の前に放った。
『ー5、4、3、2、1、STOP!』
それから丁度10秒後、タイマーは終了のコールをした。…さて、結果は……。…うん、ノルマは無事越えて……っ。
直後、背後に気配を感じ俺はゆっくりと後ろを振り返る。
「「……」」
そこには、アイーシャさんとイアンさんが唖然としながら棒立ちしていた。
「(…良く会うな~。)あ、こんにちは」
「…いやいや、何普通に挨拶してるんですか?」
「…見えなかった」
お姉さんの方はハッとした後こちらに詰め寄り、弟さんはポツリと呟いた。
「…何ですか今のスピード。護身術にしてはちょっとレベルが高過ぎると思うんですが?」
「(…ま、これは『しょうがない』かな。)でしょうね。何せ『先生』は『ナイアチ』では名の知れた方でしたから」
俺は瞬時に判断し、正直に話す言葉にした。
「…『ナイアチ』って、確か『非殺傷制圧術』の発祥の星系でしたよね……。…なんで、貴方はそんな凄い所で?」
「いや、『家庭教師』…って感じですかね?」
「…ちょっと何言ってるか分からないです」
「…右に同じく」
俺の説明に二人は思考を放棄した。
「…でしょうね。私が二人の立場だったら同じ反応をするでしょう」
「…何者なんですか、貴方は?」
「…『ちょっと変わった過去を持つ』善良な一般人ですかね?」
「…何故疑問系?」
「…はあ。まあ、『無理に聞くつもり』は無いですから良いんですけど…。
…あ、そうだー」
『何らかの事情』を察してくれた彼女は、気を取り直し最新のホログラムニュースを見せてくれた。
「…お、ようやく起動エレベーターが稼働しましたか。…わざわざ、これを見せに?というか良く俺が此処に居るって分かりましたね?」
「…まあ、貴方のおかげで『最高の一枚』が撮れましたしそのお礼みたいな物ですよ。あと、貴方がここに居ると予想したのは弟です」
「…この間会った時、『何か強そう』だったから多分此処で稽古しているじゃないかって予想した」
「いやはや、流石『名うて』の傭兵ですね」
「…ま、流石にこんな格好してれば分かりますか。
…あ、せっかくですし名乗っておきましょう」
すると、彼女は弟さんの横に立ちニコリと笑う。
「…私達は傭兵姉弟『ランスター』。
私が姉でキャプテンのアイーシャとー」
「ー…弟で整備士兼砲撃士担当のイアンです」
「おお~」
二人は腕を組みながら、背中を合わせてビシッと決めた。
「…じゃあ、こちらも名乗っておきましょう。
私はオリバー=ディネントです」
「オリバーさんですか」
「…宜しく」
自然と俺達は握手し、その後は何故か俺の『日課』を二人が見物する事になりそれが終わると近くのベンチで三人揃って腰掛けた。
「ー…はあ、そんな事が起きていたんですね……」
そして、とりとめのない会話をしているなか話題は先日発生した『事件』の話しになっていた。…なので俺は、凄く驚いた様子で呟いた。
「…もう大変でしたよ」
「…正直、星になる覚悟をした」
「(…ああ。呑み込まれてたのって二人の船だったんだ。助けられて良かった。)…ご無事で何よりです」
「「……」」
すると、二人は揃って俯いた。…ふむ、ちょっと『確認』しておくか。
なんとなくそう思い、『疑問』の表情をする。
「…どうかされましたか?」
「…いや、何でもないです。ちょっと、自分達の実力不足を嘆いていただけです」
「…うん。正直、『帝国軍』が救援に来てなかったら今頃は『あれ』の腹の中だった……」
「(…大丈夫だな。)…なるほど。流石は帝国軍ですね。
…さて、そろそろ私はこれで失礼します」
「……?あの、多分まだ『渡航船』は出ないと思いますよ?」
俺の言葉を『普通の内容』として捉えた彼女は、親切心で忠告してくれた。
「…ああ。『旅を続ける』って意味ではなく、単純に『祖父の知り合いの方』と食事の約束をしているんですよ」
「…そういえば、結局何処に宿泊していたか分からなかったから此処に来たんでしたね。
なるほど、『その方』の所に厄介になっていたんですね?」
「…あ、お手数を掛けてしまったようですね。すみません」
「いえ、私達が勝手にした事になのでお気になさらず」
「…じゃあ、僕達も戻ろう」
彼がそう言うと、彼女は通信ツールのクロックアプリで時間を確かめた。…そろそろ、『支払い』の時間が迫っているからだろう。
「…そうですね。
では、ブライトさん。また、どこかでお会いしましょう」
「…バイバイ」
「ええ」
そして、俺達はその場で解散するのだったー。
ー今思えば、これが『彼女達』との最初で最後の『普通のやり取り』だったのだ。…いや、『この後に起きる-必然-』を考えると『出逢えた』のは『導きの船』の力なのかも知れない。勿論、その時は俺さえも予想すらしていなかった。この『出逢い』が、『新たな伝説』を彩る『輝きの一つ』になるなんて事は…。