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ゾンビが右拳を振るう。上下両方の腕での攻撃だ。マイが剣身を盾にして殴打を受けるが、腕二本分のパワーには敵わない。剣ごと弾かれて床面を転がる。
「オォォ……!」
ゾンビが唸りながらマイを追撃する。だが、それを許す私達ではない。ゾンビの右手側からは私が矢を、左手側からは少女が槍を放つ。左右からの攻撃を対応は難しいだろうという判断だ。
だが、それをゾンビは易々と受け止めた。矢を上の右手で掴み、槍を上の左手で止めた。間髪入れず下の両手を私達に伸ばす。比較的近い位置にいた少女を殴り、続いて私に拳を向けた。彼女を先に攻撃した分、僅かに時間があった為、私は攻撃を避ける事が出来た。
「【
石斧がゾンビの右肩に突き刺さる。ルトちゃんが放った
石の刃が死肉に喰い込むが、しかし大して効いている様子はない。ゾンビはとうに死んでいるので痛覚がないせいだろう。
「オォオ……!」
ゾンビがルトちゃんに迫る。遠距離攻撃者を先に潰そうという判断だ。しかし、それを傍観する私ではない。
「しぃあああああっ!」
両手の指に矢を挟んでゾンビの背を連打する。矢が砕けるが、ルトちゃんに向かうゾンビの足が止まった。多少なりともダメージを与えられ、私を無視出来なくなった様子だ。
直後、衝撃が私の腹部を襲った。
ゾンビが振り向き様に手刀を振るったのだ。それが私の腹部に命中した。私の体が野球ボールのように容易く吹き飛ばされ、床に落下する。体力を見ればごっそりと削られていた。
「ああもう! 一撃でも喰らえば瀕死になるの辛いなぁ……!」
極振りを選んだ以上、必然の結果だけど。毎回命の危機に晒されるのは応える。とはいえ、即死しなかっただけでもマシか。
「テメェ、オレの幼馴染に何しやがる!」
ダウンから復帰したマイがゾンビに飛び掛かる。唐竹割りの剣撃はゾンビの脳天を狙ったものだ。だが、ゾンビは首を動かすと左肩でマイの剣を受け止めた。死肉に刃が埋まった直後、ゾンビが上の右腕でマイの下顎を打つ。衝撃にマイの脳が揺れたのと同時、下の右腕がマイの心臓を打った。突き飛ばされたマイの体が再び床に転がる。
入れ替わりに少女が槍を突き出す。穂先はゾンビの鳩尾を打つが、貫通にまでは至らない。ゾンビは一歩後退して穂先を緩め、自らの血肉ごと下の左腕で槍を払う。そして下の右腕で少女に殴り掛かった。
「ぐっ!」
咄嗟に槍を盾にして拳を受け止める少女。しかし、中途半端な姿勢で耐えられる筈もなく、槍ごと殴り飛ばされてしまった。床面を踵で削り、どうにか倒れ伏す事を防ぐ。
二人が攻防を展開している間に私は
「はあっ、はあっ……! 畜生、強ぇな、こいつ」
マイが悪態を吐く。彼女の言う通り、本当に強い。私とマイで倒せたデカ骨に比して、こいつには四人がかりで劣勢だ。明らかに地上のモンスターとはレベルが違う。初心者が挑んで良い相手ではない。
「……どうする? 逃げた方が良い?」
「逃げるんだったら一人は
「そうだね。やっぱりそうなるよね」
だったら、選択肢は一つだ。
「――こいつをここで倒す」
こいつを倒して帰還する。それ以外の道はない。