ダンジョンとは「地下牢」という意味であり、元々は城の地下に造られた監獄や地下室を指していた。それが「古城の地下には財宝が隠されていたり怪物が住み着いていたりする」という俗説と交わり、今日のように「冒険の舞台となる謎や宝が埋もれている危険な領域」を意味するようになった。
私達が向かったダンジョンもまた地下とは全く関係のない場所だった。
『ガタノソア遺跡』――朱無王国に程近い場所にある石柱と石畳の廃墟。
街の住人から聞いた話によると、かつてはある神を崇めていた神殿だったが、その儀式があまりにも
「ほお、魔物っていうから何が出やがんのかと思ったら、
マイが好戦的な笑みを浮かべる。彼女の視線の先、幾つもの白骨死体が筋肉もないのに歩き回っていた。不死者の一種、
「チャット欄は……今日は三人来てくれているね」
視界の端にあるチャット欄を見る。今はチャットに三人がコメントしてくれている。同時視聴者は四〇人強だ。〇人だった昨日までに比べれば恵まれているけど、推し達の配信に比べればまだまだ寂しい数だ。
「そんなに少ねえのか? 登録者数が十倍にもなったっつーのに?」
チャット欄は他の人の視界には表示されず、
「十倍になったっていっても五〇〇人だからねぇ。一人でもコメントしてくれればマシな方だよ」
さっきも言ったけど、登録者全員が動画を見るなんて事はまずない。
こればっかりはどうしようもない。登録者数という分母を増やさなくてはコメントという分子は増えないのだ。比例の関係だ。コメントが欲しかったら配信者は登録者数を増やす努力をしなくてはならない。
「まあ、それは今後の私の活動次第だから今は放っておいて。それより、とりあえずレベリングも兼ねて適当にバトルしながら散策しよっか」
「そうだな、まだ攻撃をまともに当てられねえし。スキルの方も練習しておき……」
「ぴぃっぎゃあああああ――っ!!」
「!?」
遺跡の奥から悲鳴が響いた。マイと顔を合わせると、奥へと走り出す。途中でスケルトン達が私達に手を伸ばすが、敏捷値極振りの私には触れられない。マイは私程早くはないが、剣の腹でスケルトンの追走を受け流していた。
崩れた柱や壁を乗り越え、角を曲がる。そこには、
「うわぁぁぁん! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
一人の女の子が蹲って泣き喚いていた。