「……誰だよ、てめぇ。名乗りもせずにこいつに近付くんじゃねえよ」
「ああ、それは御免ね。会社の方針で名前は今、明かせないのよ。だから顔もこんなんにしてんの。詮索はNGって事で了解してね。
……っと、いけないいけない。のんびり話をしている暇はないんだった。突然で悪いんだけど、僕とパーティーを組んでくんない?」
「えっ? パーティーですか?」
なんでここでいきなりパーティーの話になったのだろう。
ひょっとしてこれはスカウトという奴なのでは? この人が私の予想通りの人物であるなら企業勢のVTuberだ。業界人に見初められて有名VTuberへの階段を上っていくシンデレラストーリー? いやいやまさか。まだテストプレイ一日目だっていうのにそんな展開、心の準備が……!
「いや、期待させておいて悪いけど、単純に戦力が欲しいだけなのよ。ほらあれ」
包帯男が指差すのと巨大な影が私の上に降りたのは同時だった。彼の指し示された先を見ると、そこにあったのは城だ。なんと城に手足が生えてこっちに向かって歩いてきていたのだ。
「ぬぁんですか、あれー!?」
「あれね、
「……つまり?」
「僕が近付き過ぎて動かしちゃったって事」
「はあ!? なんて事をしやがんだ、てめぇ!」
ていうか、なんでそれに私達を巻き込んだんですか!
ああああああああこっちに迫ってくるぅぅぅぅぅー!
「僕が逃げた先にいたあんたらの運が悪い。ああいや、そんな事言っている場合じゃないな。御免ね。それでも素直に倒される訳にはいかないからさ、一緒に戦ってくれないかな?」
「そんなの急に言われても……ああああああああああ!」
言っている間にもズンズンと城は近付いてきている。もう逃げ切れる距離じゃない。
「ちっ、やるしかねえか。覚えたばかりのスキルを試してやる!」
「えっ、えっ!? 本当にやるの!?」
「ほらほら構えて! あっ、カメラは回しておいた方が良いよ。城と戦う映像なんて滅多に撮れないんだからさ」
「えええええっ!? で、で、でも私、さっきの戦いで矢を使い切っちゃって……!」
「えっ、そうなの?」
「CaSYYYYY――!」
わちゃわちゃと混乱している間に城が私の前に立ち、戦闘が始まってしまった。それでもVTuberである私の体は反射的にカメラの位置を調整し、城と戦う私の勇姿をきっちりと撮影していた。
「や、や、や……やったろーじゃねーかー!」
――結局、あの魔城兵とやらは今の私達のレベルで敵う相手ではなく。
矢を全て使い果たした弓使いなど最早弓使いではなく、今の私はただのすばしっこい小娘でしかなかった。マイも包帯男も殆ど抵抗出来ずに叩き潰されて戦闘不能。残された私は草原を全力で逃走する羽目になった。