「ったく、オレよりもお前の方がログインが遅いなんてな。どうせまた始める前にうじうじと躊躇っていたんだろ?」
「うっ……正解です」
さすが我が幼馴染。私の性格を良く知っている。やると決めた筈なのに勇気が出ず、実行まで時間が掛かってしまうのは私の悪い癖だ。
「それと今はマイだ。オレの事は真畏じゃなくマイと呼べ」
「ああ、PC名、本名にしたんだ……」
そして私も幼馴染の性格を知っている。この娘は昔から色々と大雑把というか、拘る事はしないというか、一切捻らずに行動する
見れば、確かに彼女の頭の上には白文字で「マイ」と書かれていた。このゲームではPC・NPCの名前は頭上に表示されるのだ。
「ん? 何だこの光の玉は?」
とマイが私の右肩の上辺りを浮遊している
「カメラだよ。マナちゃんから説明は受けなかったの?」
「あー、オレはVTuberじゃねえっつったからか? こいつは今初めて見るわ。カメラは欲しくなったら後からでも無料で貰えるとは聞いちゃいたが」
「そうなんだ。……って、御免! これ自動で配信が始まちゃっている!」
光の玉に光の文字で「現在配信中」と浮かんでいた。恐らくはログイン時のリアクションを記録してあげようという運営からのサービスだろう。
しかし、これはまずい。VTuberではないマイを勝手に映してしまったのは問題がある。撮影はその人の許可を得てからするのがマナーだ。そこは一線を引かなくてはならない。
「構わねえよ。目隠しフィルターはオンにしてある。映されても問題ねえさ」
「あ、そっか。いやでも……まあマイが良いって言うんなら良いけど」
PCにはそれぞれフィルター機能が備わっている。カメラに映りたくない人が自分にカメラを向けられた時、自動でこの機能は発揮される。フィルターが掛かり、PCが誰だか分からないようにするのだ。目隠しは一番弱いフィルターで、カメラ越しに目に一本の黒線が入る。これより強いものになるとモザイク処理や音声加工がある。
しかし目隠しだけで充分だと宣う辺り、やっぱりマイは大雑把な性格だ。
「あれ、目端に何か……あ、これ、チャット欄か」
私の視界の端には白い空欄が浮かんでいた。見覚えのある四角形――YabeeTubeの配信画面のチャット欄だ。
成程、このゲームでは配信中はチャット欄はこうやって表示されるシステムなんだな。視界の邪魔になるからか一応表示を消す事も出来るようだけど、とりあえず今は出したままにしておこう。
「
早速配信を開始して挨拶をする。が、チャット欄に返事はない。ただの視聴率〇パーセントのようだ。
まあ登録者数五〇人以下の配信なんてそんなものだ。いつもの事いつもの事、気にしない気にしない。