老化と言われたメイソンは恥ずかしそうに「そんなんじゃない」と妻の言葉を否定する。
「家族も同然のオーキッド坊ちゃんが、見染めたのがどんな女性か気になっていたんだよ。セシリアと同年代って言っても、育った国が違えば、性格や思考はまた違うだろう」
「全く、アンタは……」
「あの、お二人は私のことをどこまでご存知なんですか……?」
「どこまでって……。オーキッド坊ちゃんが保護したシュタルクヘルト人の捕虜ってことだけだな。ああ、民間人のシュタルクヘルト人って言っていたな」
昨晩、オルキデアから偽の経歴書の作成に協力してもらった以上、コーンウォール夫妻はアリーシャがシュタルクヘルト人であることは知っていると聞かされていた。
さすがに、シュタルクヘルトの要人のアリサであることは夫婦には秘密にしてくれたらしいが、ただの民間人ではないと察するところがあるのだろう。
「そうですか……」
呆れた顔をしたマルテ「そんな辛気臭い話しないの」と、夫を止める。
「アリーシャさん、お部屋の用意が出来ているから、確認してくれる?」
「はい!」
「おれは買い出しに行ってきますね。車をお借りしてもいいですか?」
「ああ、いいとも。アンタはクシャさんと買い出しに行ってくれる?」
「わかったよ。クシャ君、うちまで車を取りに行けるかい?」
「わかりました」
車を取りにコーンウォール家の屋敷に向かったクシャースラとメイソンを見送ると、アリーシャはマルテの案内で屋敷の二階に用意したという部屋に向かう。
「急いで掃除をしたから、見苦しいところがあったらごめんなさいね。オーキッド坊ちゃんがこの屋敷に滞在するなんて、滅多に無かったから」
「そうなんですか?」
「戻ってきても、せいぜい着替えを取りに来るだけだったのよ。私たちも掃除と言っても埃を払うくらいだったから……。後は、防犯面での管理と、庭の手入れくらいしかやっていなくて……」
「それでお庭が綺麗だったんですね」
アリーシャが褒めると「まぁ、ありがとう」と、嬉しそうにマルテは笑う。
「主人が喜ぶわ~。ああ見えて、うちの主人が手入れしているのよ。ガーデニングが趣味でね」
結婚前のセシリアがいくつもの仕事を掛け持ちしていたように、メイソンもまたいくつもの仕事を掛け持ちしていた。
自分で立ち上げた新聞の配達所を兼ねた印刷工場の他にも、軍や国で管理している公園や土地の植木の剪定といった造園から、花壇の管理、園内にある湖やボート小屋の管理といった仕事もしている。
貴族ではあるが、メイソンやオルキデアの父であるエラフのように、身分だけの貴族の場合、屋敷や領地の外で働いているものが多い。
メイソンの場合は、領地がないので外で働くしかなかったのだった。
「仕事がそのまま趣味になったようなものなんだけど、この屋敷の広いお庭を好きに手入れ出来るのが嬉しいみたいなの。うちの庭はここよりも小さいから」
そこで、マルテは小さく息を吐いた。
「ただ、オーキッド坊ちゃんはなかなか帰って来ないから、屋敷に人も来なくてね……。私やセシリア以外に、お庭を見せる相手が居なくて、寂しいみたいで」
ちなみに、クシャースラとセシリアの家にもこの屋敷ほどではないが小さな庭があるらしい。
ただ、そっちはセシリアが管理しているので、手入れをさせてくれないらしい。
その話を教えてくれたマルテは、「親子で同じ趣味を持ったのかしら」と、笑っていたのだった。