「アリーシャさんさえ良ければ、私と友人になって頂けると嬉しいです」
「セシリアさん……」
セシリアに両手を握られて、アリーシャはこくりと頷く。
「私も同年代の友人がいないので、友達になって頂けると嬉しいです。でも、私でいいんですか?」
「はい。私はアリーシャさんと友人になりたいです」
アリーシャの菫色の瞳が大きく開かれる。やがてアリーシャは小声で「……嬉しいです」と呟く。
「ずっと友達なんて出来ないって思っていたので……。あっちに住んでいた頃は」
アリーシャの指す「あっち」とは、シュタルクヘルトのことだろう。
母親を亡くしてから、アリーシャはずっとひとりだったらしい。
家族に必要とされず、心を許せる友人もおらず、心無い使用人からは嫌がらせをされ、自由に外に出ることさえ叶わない。
この話をアリーシャから聞いた時、これではまるで牢に繋がれている囚人と何も変わらないと、オルキデアは思ったものだった。
「これからよろしくお願いします」
「よろしくお願いします。アリーシャさん」
女子二人が握手を交わし和やかな雰囲気の中、腕時計を確認したクシャースラがセシリアに声を掛ける。
「セシリア、そろそろ用意をしないと」
「そうでした。では私たちは着替えてきます。オーキッド様、仮眠室をお借りしてもいいでしょうか?」
「ああ、使ってくれ」
「ありがとうございます。さぁ、アリーシャさん」
「は、はい……」
セシリアに手を引かれる様にして、時折オルキデアの方を振り返りつつも、アリーシャは仮眠室へと消える。仮眠室の扉が閉まると、クシャースラが感嘆する様に息を吐き出したのであった。
「女同士の友情っていいな。オルキデア」
「そうだな」
時折、かしましい話し声が聞こえてくる仮眠室の扉を眺めていると、クシャースラが肩を組んでくる。
「おれたちも仲良くしようぜ。二人に負けないくらいに」
「煩いぞ。……それで、用意は大丈夫か?」
肩に回された腕を払い除けながらオルキデアが尋ねると、「問題ない」とクシャースラは応じる。
「軍部の入り口で、わざとセシリアに帽子を取らせた。これでおれが連れている緑色のドレスの女性はセシリアだと、見張りに認識させられたはずだ」
軍部の入り口には、常に警備担当の軍人が立っている。
オルキデアたち軍部の人間や一部の高級文官は問題ないが、部外者は入ることが出来ない。そんな部外者の中でも唯一例外的に入れるのが、軍に所属する軍人の家族だった。
それを逆手にとって、オルキデアたちはセシリアに協力を依頼した。セシリアに協力を依頼したのは、シュタルクヘルト語が多少話せる以外にも、軍人であるクシャースラの妻というのもあった。
セシリアなら軍部に入っても怪しまれない。またクシャースラが連れて入ることで、クシャースラが連れた緑色のドレス姿の女性は、クシャースラの妻であるセシリアだと印象付けられる。
その為に、セシリアにはわざと目立つようなドレスを用意してもらった。
これなら、軍部を出て行くクシャースラが連れている緑色の女性は「セシリア」だと思われて怪しまれない。
例え、同じドレスを着た別の「セシリア」に入れ替わっていたとしてもーー。
「いつもなら
「ああ。今日がまたとない機会だ。今日を逃すと、恐らく機会はしばらく巡ってこないだろうからな」
いつもなら厳重な警備も、演習の際には人数が減る。
警備担当も軍人なので、ほんの数人を残して演習に行くだろう。
いつもなら人手に余裕がある分、軍部から出る際にも厳密に確認されるが、今日は人数が少ない分、そこまで確認はされない。言い換えれば、その分、抜け穴が出来やすい。
監視が厳しくないという点において、今日がアリーシャを連れ出すのに最適の日だった。