前後から同時に繰り出された、二本の刀を避ける。お互いの肩を刺してしまい悶絶する。
その隙を狙って、脚をそれぞれに斬りつける。
なんとも
人数では不利であるのにもかかわらず、それを感じさせない気迫と動き。
その場にいた人は誰も口を挟むことができず、見ていることしかできなかった。
「なにをしているの! さっさと奴を押さえなさい!」
いつの間にか姿をあらわした女が、金切り声を上げた。
反対の廊下に現当主が姿を見せる。
「おぬしが黒幕か?」
「なぜ……あなた様がここに?」
「自分の子を次期当主にと考えていたのではあるまいな!」
「だとしたら、なんだというのです!
「黙らんか! そのようなこと、このわしが認めんぞ!」
二人の喧嘩は収まらなかったが、そのことは誰も気にとめていなかった。
その間霊斬は、刺客の中でも、耐久力の高い男を相手取っていた。
急所以外はすべて斬りつけたが、倒れる様子がない。
これ以上長引けば、不利になるのは確か。相手を斬るわけにもいかない。
みねうちでもと思ったが、相手にこれ以上舐められるのは
そんなことを考えていると、男が攻撃を繰り出してくる。
慌てて躱し、首に手刀を喰らわせた。
男は悔しそうな顔をして、気を失った。
それを見た霊斬は声を張った。
「富川義徳!」
「大声で呼ばないでください。いったい、なんですか。急に入ってきて」
静まった中庭で、その男は困った顔をした。静かに霊斬の前へと歩みを進める。
「先の小料理屋の一件、貴様の仕業だな?」
「はて? なんのことやら」
霊斬は溜息を吐く。
「貴様の父親が起こした不祥事を収めるため、武士を辞めさせられた。あの日憂さ晴らしに、呑んでいたんだろう?」
尋ねる霊斬の声は、冷ややかなものだった。
「その日は呑んでいましたね」
義徳はうなずく。
「町ではここの暗い噂が広まっているようだぞ? お前のしたことは町人らが見ている」
義徳は怒りのあまり震えながら、懐から取り出した短刀の柄に手をかけていた。
「だったら、全員に死をくれてやる!」
「なにをしたって、彼らの目からは逃れられない。まあ、この家の地位がどこまで堕ちようが、俺にはどうでもいいんだが」
「黙れ! お前さえいなければ、白紙に戻せる!」
義徳は短刀を抜きながら、斬りつけてきた。
黒刀の柄に、手を伸ばそうともしなかった。その攻撃を躱し、足を払った。
体勢を崩し、仰向けに地面に転がった義徳の胸を、草履で踏みつける。
念のため目の前に転がっていた抜き身の短刀を遠くへ
暴れる義徳を再度踏みつけると、大人しくなった。
駄目もとで霊斬は大声を出す。
「誰か、自身番、呼んでくれないか?」
「それならもう手配済み。あと少ししたらくるよ」
誰かの声が響いた。
霊斬は振り返って目を見開く。そこにいたのは、かなりの腕を持つ忍び。
「あんた、面白そうなことしているねぇ。情報が欲しけりゃ、いつでもきな」
「どうして、ここにいる?」
霊斬が問うと、鼻で嗤うのが分かった。
「それは後で。さっさといかないと、面倒なことになるよ」
しばらく黙っていた男女を一瞥する。
自身番の連中の声が聞こえてくる。
霊斬と忍びは屋敷を出た。