第28話

『最近なっちゃん達、随分楽しそうじゃん?なんかいいことでもあったの?』

『おおおお、気になる?気になりますかねユキ殿?』

『あ、あ……なんかそのノリ怖い。別にいいです、ハイ』

『まあそう言わずに聞いてくれたまえよー。わたし達、面白いもの見つけたんだからさあ。こわこわメロンちゃんねるってようつべのチャンネル知ってる?』

『知らん。アタシ、そういうの興味ねえもん。ようはオカルト系だろ』

『なんでそう冷たいかなあ。面白いんだよ?ああいうちゃんねる系。やべえ廃墟とか自分で探索するのは駄目だけどさ、人が撮影した動画見るだけなら合法だしね。あと、怖い儀式とかも、自分で試す勇気がないんで人がやるのを見ていいたいと言いますか』

『つまり他力本願、と』

『身も蓋もないよユキ殿!』

『ハイハイ。で、そのメロンちゃんねるっつーのがどうしたわけ?』

『扉鬼、って怪談を紹介してバズってんの!探したら、今まで他にも取り上げてる人とか、噂してる人はいたんだけどさ。ちゃんとしたおまじないのやり方を、しかも有名なオカルト系ユーチューバーが紹介したの初めてらしくって』

『おまじない、ねえ。それやったらどうなるの?』

『夢を見るの、夢を。夢の中で、変な扉がいーっぱいの空間に誘われて、そこを冒険するわけ。で、その中に本物の扉と鍵があって、それを見つけて脱出すると、どんな願いでも叶うってのねー』

『胡散臭い』 

『一刀両断!』

『いやだってさあ、もう少しなっちゃんも冷静に考えなって。なんのリスクもなしになんでも願いが叶う?そんなうまい話しがあるわけねえべ?』

『そんなことないよ、たぶん!』

『多分かい』

『ホンモノなのは間違いないもん。わたしも既に試したけど、ちゃんと変な夢見たよ?灰色のコンクリートの打ちっぱなしみたいな部屋でー、ドアがずらずらずらーって並んでて!そのうちの一つのドアを開けたらなんか水が流れ込んできたから、慌てて坂道の上の方に逃げて別のドアに入ってー。そしたらなんか、草むらみたいなところに出て!変な扉があるのよ、おもしろくなーい?』

『どうせ、それっぽい話を聞いたからそれっぽい夢見ただけだろ』

『そんなことないですー!だって翌日の晩も、その翌日もちゃんと夢の続きを見たんだから!まあ、空間がかなり広いみたいだから、ホンモノのドアと鍵を見つけるのは容易じゃなさそうではあるけど……でも夢の中だから多少怪我しても安全だしね。わたしスッ転んだけど、現実の体は擦り傷とかなかったしー』

『能天気なやつだなあ。で、そのおまじないはどうやるのさ?』

『おおおお、ユキ殿も興味出てきたでござるなー?教えてしんぜよう!』

『いやだから、なんなのその謎口調……』




 ***




【YAFOO知恵袋より抜粋】



●回答受付終了まであと6日

naw*******さん

「最近噂になっている、扉鬼、という怪談について質問です。

 何でも願いが叶うということで気になっているのですが、最初にこの噂を大きく広めた女性が消息不明になっているらしいというのを聞きました。

 とても気になるおまじないなのですが、ひょっとして危険だったりするのでしょうか?

 夢の中で探検するだけなので安全だと聞いたのですが、まだちょっと怖くてメロンちゃんねるさんの動画とか見れていない状況です……。

 詳しいことをご存知の人は教えてください!」



ベストアンサー

●積木で遊ぼうさん

「こんにちはー!とりあえずnawさん呼びでいいですかね?

 扉鬼については私も詳しく知らないのですがメロンちゃんねるさんについてはファンでずっと追いかけてきたものです。

 メロンちゃんねるさんの紹介なら信用していいと思います。いつも信憑性の高い情報ばかりを精査して紹介してくれるちゃんねるです。今回も半端な噂などではなく、本当に願いが叶うおまじないだと確信したから紹介したのではないでしょうか。


 夢の中でどこかを冒険するというのなら、現実で怪我をしたり死んだりすることもないと思います。

 とりあえず試してみて、またわからないことがあったらメロンちゃんねるさんに問い合わせてみてはどうでしょうか?」


→●質問者からのお礼コメント

「ありがとうございます!

 そんなに信用できる配信者さんだったのですね!これは良いことを聴きました。

 とりあえず、勇気を出して動画見てみようと思います。本当にありがとうございます!」



その他の回答5件

●ROKKAさん

「努力もせずに願い叶えてもらおうとかマジ無能乙」



●pak*******さん

「本物だと思います。ちゃんと願い叶うってメロンちゃんねるさんも言ってたから信じていいはず!

 自分も動画見たら本当に扉の世界に迷い込み夢を見るようになりましたよ!スリリングで毎晩楽しいです。願いが叶う云々もそうだけど、多分ゲーム感覚で楽しんでる人もいるんじゃないかな(*^-^*)」



●kkk********さん

「扉鬼の願いが叶うのは先着順だって噂も聞いたことあるから、試すなら早めにした方がいいよー!

 マジで夢で見られるらしいし、そのへんは信用性高し!」



●オリヴァーさん

「やめた方がいいです、そのおまじないは本当に危険なものです。

 夢の中には怪物や罠がたくさんあって、そこで襲われて殺されると本当に死んでしまうことになります。

 どんな願いを持っているのかはわかりませんが、真っ当な方法で叶えた方がいい。おまじないに手を出したら二度と抜け出せませんよ」



●梅雨入りさん

「メロンちゃんねる絡みだと大抵アンチが湧くなwwww

 アンチが否定的なこと言って喚いてるけどスルーでよろ」




 ***




 同じマンションに住んでいる、というのは便利だ。こういう時、織葉はつくづく思う。えりいの家に足を運ぶのも簡単で、ちょっとしたついでに様子を見に来ることもできるのだから。

 同時に、運動部系の部活動に入っていなくて良かったと思う。織葉が部活に入らず帰宅部を通しているのには、一応理由もあったのだけれど。


――空気が重たいな。


 日曜日。織葉はため息交じりで、えりいの家のインターホンを鳴らしたのだった。すぐに通話が繋がる。


『はい』

「すみません、織葉です、けど」

『ああ、織葉くん!ちょっと待っててね!』


 名前を言えば、用件も聞かずにすぐえりいの母がドアを開けてくれる。どれだけ信用されてるんだろう、と少しだけ苦笑いしたくなった。あるいは、織葉が今更えりいに何かするはずもない、と本気でその想定がすっぽぬけているのだろうか。

 えりいにどこまで男として見られているのかもわからない上、親からもそのように思われていないのだとしたら少々笑える。勿論、織葉としてはえりいが嫌がるようなことをするつもりは微塵もないけれども。


「こんにちは織葉くん。ごめんね、うちの子まだ学校に行きたくないって言ってて」


 えりいの母は、心底申し訳なさそうに言った。


「やっぱり、まだショックを引きずってるみたい。……何があったのか聞いても、意味不明なことばっかり言ってるし、混乱してるみたいで」

「そうですか……」


 紺野彩音が死んでから、既に半月以上が経過している。

 あの日――保健室でえりいは、蓮子とともに彩音を看病していたらしいことがわかっている。どうやら彼女達は少し過ぎたところで、彩音の申し出により先に教室へ戻ろうとしたようなのだ。

 ところが、突然保健室の中から悲鳴が聞こえた。

 中を見ると、彩音が絶叫しながら苦しんでいて――目の前で、彩音の腕がちぎれ、腹が引き裂かれるのを見てしまった、という。

 勿論、そんな話を大人達が信じるはずがない。

 彼女らの悲鳴を聞きつけて教師たちがやってきた時、保健室は地獄絵図も同然だった。ベッドとベッドの隙間に倒れている彩音は肩から右腕が引きちぎられたようになっており、腹部は引き裂かれて内臓が飛び出している状態。そのすぐ近くで、彩音の血にまみれたえりいと蓮子が気絶しているという有様だったのである。

 三人ともが、その場で病院に搬送された。

 えりいと蓮子に目立った外傷はなかったが、彩音は右肩切断、それから腹部の大きな裂傷によって既に命を落としていたそうだ。

 彩音の死は、殺人事件、もしくは猛獣による殺傷事件だと判断された。

 保健室のドアに鍵はかかってなかったし、この日は暑かったことから窓も解放されていた。密室状態ではなく、なんらかの不審者や猛獣が侵入することも不可能ではなかったからである。

 同時に、彩音の右腕や腹には派手な噛み傷があり、内臓や肉がごっそりと消失していたというのも大きい。特に、腸の半分以上がちぎられて、何者かに喰われたような形跡があった。警察が猛獣による犯行を疑うのも当然だろう。

 一緒にいて無事だったにも関わらずえりいと蓮子に容疑がかからなかったのは、二人が彩音と極めて親しかったことと、それから彩音の傷がどう見ても人間の犯行には見えなかったというのが大きい。特に、腕は力任せに肩から引きちぎられたようになっている。人間の、それも普通の女子中学生の腕力で生きた人間の腕を引きちぎるなんて不可能だ。いくら、二人がかりであったとしても、である。

 司法解剖の結果、彩音の死因は内臓損傷と大量出血による多臓器不全及びショック死。傷のほぼ全てに生活反応があったために、警察官も皆絶句していたと聞いている。

 彼女の遺体は念入りに調べられた後、火葬された。葬式には織葉も出たが、とても人に見せられるような有様ではなかったこともあり、彩音の遺体はほとんど包帯でグルグル巻きの状態だったという。棺は顔以外が開けられることはなく、花も僅かしか入れることができなかった。

 彼女の家族や友人たちがどれほど悲しんだか、悔しかったか。想像するに余りあるというものだ。


――彼女は扉鬼の世界で殺された、その可能性が高い。


「……おばさん」


 えりいが傷ついているのはわかる。けれど、このまま閉じこもっていても何も解決しない。

 自分は、彼女を助けたい。助けるのだと、幼い頃から決めているのだ。だから。


「えりいと、話をさせてもらえませんか……二人で」


 半月過ぎても、えりいは学校に戻らなかった。少し時間を置くべきだと思っておいておいたが、そろそろ限界だ。

 扉鬼のおまじないを知る者は加速度的に増えている。えりいも蓮子も、早く手を打たないと鬼に殺されてしまうかもしれない。

 どれだけ苦しくても、恐ろしくても、立ち向かうことしかできないのだ。


――紺野彩音の死で、わかったこともある。……どれほど恐ろしくても、俺たちは前に進むしかないんだ。


 織葉の真剣な気持ちが伝わったのか。少し疲れた様子で、えりいの母はこくりと頷いたのだった。