両腕に水魔法を風魔法で圧縮し、一気に噴射する。
瞬間のスピードだけなら、さっきのソルドさんにも負けないはずだ。
「来い、エリアル・テイラー! 貴女とここで闘えたこと、私は本当に幸運だ!」
「そうですかっ……“
川の流れも合わせ、自身にも負荷が来るほど強烈な威力にまで達する。
そして水中最高速度の蹴りが、ソルドさんを捉えた。
「っ、ぐおおおっ!! 押さえっっ、きれんっ!」
相手は私の攻撃を両腕で受け止め、風魔法を推進力に川底で踏ん張った。
しかし、少しずつ、私の力がソルドさんを押し始める。
今だ────
「出、力っ、全、開いぃっっっ!」
「くそっ! だぁっ!!」
押し負けたソルドさんは、そのまま水底を転がる。
澄んだ川の水に泥が舞い上がった。
「ぐっ、やった……?」
魔力をほとんど使い果たし、私は膝をついた。
例え一度外で息が出来ても、それが決定的な体力の回復には繋がらない。
体がフラつき、少し川の流れに押されて呼吸も苦しくなる。
もうかなり、限界に近い────
「ふーっ、ふーっ────いや、まだ此方を倒すのには足りないよ。もう少しだったな、貴女は頑張った」
「っ…………」
全力は、出したつもりだった。
しかし土が舞い上がり濁った水の向こうからユラリ、とソルドさんが顔を出す。
まだ、私は及ばないのか────
「あれだけやって、まだ倒せないんですか。イヤになります……」
足りない、至らない、倒せない────相手は同期のなかでも屈指の実力者、しかもここは相手のプラットフォームとも呼べる、水中なのだ。
目の前の壁が、絶望的に大きすぎる。
「いいや、惜しかったよ。いい加減、こちらも限界が近い。決めさせてもらう」
「うへぇ、もう無理です。えいっ」
私は派手に水底の砂ぼこりを舞わせると、なるべく急いで逃げる。
少し進むと最初の場所に戻ってきた、きーさんの変身している船だ。
おそらく2人が、私を待っているはずだけれど────
「待て! その程度の目眩ましで逃がすわけないだろ!!」
背後から、ソルドさんの追ってくる気配、しかも私より相当に速い。
やはり逃げきることはできなかったか。
「やっぱり追ってきましたね────がっ……!」
「ふーっ、ふーっ……ようやく捕まえたぞ……」
ようやく船まで来たところで、首元を捕らえられた。
相手も、相当体力の限界が差し迫っているのだろう。
先程までの穏やかな口調は崩れ、その腕がギリギリと私を締め上げた。
「がっ……ぐぅ……」
口から貴重な空気が漏れでるのを感じる。
強く押し付けられた首が圧迫されて、それだけで意識がトビそうだ。
「ようやく捕らえた、もう終わりにしようか……
先程から、左の懐を庇っているな。しかし稼働において制限されている様子はない。ならば、そちらはブラフで、右の懐か?」
「っ……」
予想は当たっている。確かに懐には、この2回戦の命とも言える、水晶を私は入れている。
でも────
「ぐぅ、触らせませんよ、これはっ。きーさん槍にっ……!」
「何っ!?」
私は背後で変身したきーさんを掴み、素早く切りつける。
背後の船、私の声と共に武器に変わったそれに怯み、相手は反応の遅れた。
そして回避される寸前、その刃がソルドさんの腹を少しだけ引き裂く。
「まさかなっ! まさか、ここで仲間を見捨てるか!? 失望したぞ!」
「いいえ、そんなことしませんっ」
確かにソルドさんの言う通り、なんの考えもなしにここできーさんを槍に変身させていたら、船に乗っている2人は溺れるしかない。
けれど、ドボンと────
「なっ! 嘘だろう……!」
ソルドさんのすぐ頭上に落ちてきた人影を、相手は抱えにいく。
それは船上で戦っていたはずの、ソルドさんの弟だった。
「弟が負けたか、ヒルベルト・セッツロめ。それに────」
私の仲間
しかも狙ったように自身の頭上に落ちてきた弟を抱え、水面をチラリと見てから、すぐにソルドさんはこちらに向き直った。
しかし、私に見せたその一瞬の隙だけで、私が体勢を整えるには充分だった。
「息も出来ました、きーさんも手元に来ました。
私はここで負けるわけにはいかない────本気でいきますっ」
私がソルドさんと戦っている間、
乗り込んできた男は、ヒルベルトさんとレベッカさんが苦戦しつつも倒したこと。
実はレベッカさんが、ヒルベルトさんを警戒して自身の固有能力を隠していたこと。
彼女の能力が、【周りの重力を操れる】ものだと言うこと────
「うおおおおおおっっ!!」
「来るか……」
水底に足を踏ん張り、魔力を両腕に充填する。一撃、一刀に全てをかける。
きーさんの槍から放出した水魔法で、川の水を巻き上げる。
両腕両足から発射した風魔法で、自身を押さえつけ槍に勢いをつける。
「“
大きな川の水が一瞬止まり、槍を機転に逆方向に流れる。
両腕の腱が、ビキビキと悲鳴をあげる。
しかし2人の作ってくれたこの一撃、無駄にはできない!
槍を中心に渦巻く、川の水を全てを使った巨大な一撃を、私は相手に振りかぶった。
「なるほど、渦潮を作りぶつけてくるか……」
それを見たソルドさんは弟を抱えたまま、構えるでもなく、逃げるでもなく────
「これで勘弁してくれ」
懐から水晶を取りだし、
「へ?」
「参った、此方の敗けだ!!」
ソルドさんは叫んだが、急に勢いは止まらず、攻撃を止めるも巻き込んだ川の水は私ごと身体をさらっていった。
「くっ、凄まじいな」
「ゴボボボボ……」
自分で作った渦潮の流れに、私は流されて行く────