目立ったキャリアや活躍がない私のチームメイト探しは、思ったよりも困難を極めた。
「あ、あの────」
「ん? あー、すまないね。僕らもう、チーム決まってるんだ」
「すみませ────」
「ごめん、貴女とは組まないから」
話しかける
そりゃそうか、何せ私は「2年もfランクの雑魚軍人」として噂になるくらいの、期待値ゼロ選手だ。
普段は隊の人としかほとんど関わらないので忘れかけていたけれど、いざポツンと一人取り残されると、周りからの目線や扱いを、久しぶりに思い出した。
ま、そう思うのも当然なんだけど。
“もうほとんど、みんな決まりかけてるよ”
「うぅ~、どうしよ……」
空を飛んで確認してきてくれたきーさんからの報告を受けて、私はさらに焦った。
もし最後まで見つからなくても、チームを組んで出場は出来る。
余った人と、2人のチームを組めばいいのだ。
しかし、そんなチームでもルールである24時間の休憩はとらなければいけないし、そうなるとどうしても1人のバランスが大きくなる。
具体的には4時間休憩を多くとらなければならない。
それだけは、なんとしても避けないと────
「きーさん、あっちの方飛んで見てきて────」
「ねぇ、エリーさん!! ちょっと待って!!」
人混みの中、立ち去ろうとした私の手を、誰かが急に握ってきた。
手の主は、200人と言う混雑した中でも、私が離れないように、固く固く、手を掴んでいる。
「あなたは……」
「待って! チームまだ出来てないなら、私と組んで! 必ず役に立つから、協力させて!」
「えっと────レベッカさん??」
私の手を握ってきたのは、かつてスピカちゃんと同じ隊に所属していて、一緒にd級試験を受けた仲間である、レベッカ・アリスガーデンさんだった。
「レベッカさん、2回戦に残ってた──と言うか、出場してたんですね……
ど、どうしたんですか急に……」
「えっとね────こないだのお礼がしたくて。
前に隊の仲間を紹介してくれたでしょ、私どうしてもその時のお礼がしたいの。
だから2回戦、エリーさんのお手伝いさせて!」
確かにそれは、私にとっては願ってもない提案だった。
同じチームで、確実に自分に協力してくれる相手なら、協力必須の2回戦も有利に進められる。
ただ、それはレベッカさんの言うことが本当だった場合だ。
「こないだ家で襲撃されたときレベッカさんには助けてもらったから、恩と言えば私の方があるんですけれど……」
「あれは、通りかかっただけだもん。
あれでチャラには、できないよ」
「え、でもレベッカさんは、いいんですか……?
この試合、それじゃレベッカさんゴールできないんじゃ……」
「ううん、自分もゴールできるように精一杯やるよ。
でもエリーさんを蹴落としてゴールは、出来ないって言うか……」
レベッカさんは、少し恥ずかしそうに目をそらしながら言った。
「せめてチームで協力できる今回くらいは、エリーさんの役に立ちたいの。
それが、私の隊員たちと引き合わせてくれたエリーさんにできる、せめてもの恩返しだと思うから……」
「は、はぁ……」
私を騙すメリット──と言うのも思い付かないけれど、利用しようと思えば、相手をとことん利用できるのが、この2回戦。
わざわざ、私に声をかけてくる、と言うのもお礼と言えば聞こえはいいけれど、裏があるとすれば怪しすぎる。
そもそも、私は性格を推し量れるほど、この子の事を知らない。
私は、何としてもこの2回戦を勝ち抜かなければならない。
それなのに、簡単にこの人を、信用してもいいのだろうか────
「え、え~っと────うぃっ?」
どうしたものかと迷っていた時、後ろからドンッと強い力で突き飛ばされた。
勢いで私は大きくよろけてしまう。
「おわわわっ」
「うわっ!! エリーさん大丈夫っ!?
えっと、貴方突然────なに??」
レベッカさんに抱えられて振り向くと、後ろにはメガネをかけた、背の高い男性の軍人が立っていた。
気配には敏感な私だけれど、相手が近づくのに全く気付かなかった。
多分ボーッとしすぎた。
「そこの君。疑うのも無理はないけれど、その子の言うことは、信用しても大丈夫なんだ。
こんな時になんだけれど、悪意も下心も、裏も表もない。
打算のない、正真正銘のまっすぐな
「────? 貴方は?」
その青年に、なぜだか私は見覚えが少しだけあった。
でも彼の名前を挙げようと、すぐ喉元まで出てきているのに、どうにも思い出せない。
「えっと、話すのは初めまして、ですよね……? 会ったことは、ある……?
思い出せないんですけど……」
「うん、間違いない。顔見知りではあるけれど、こうしてこの僕と君が話すのは、初めましてだね。
名前が出てこないのも当然の話だよ」
それは少し申し訳ないけれど、相手は確かに私の名前を知っているらしい。
「逆に、オレは君の事を、リゲルから話は聞いたことあるよ。
オレはヒルベルト・セッツロ、そっちもこの名前くらいは、聞いてピンときてくれるんじゃあ、ないかな?」
名前を聞いてようやく思い出す。
そうだ、私は彼の顔を何度か見たことがある。
彼は確か、ロイドがこの間まで隊長を務めていた、隊の1人だ。
ロイド、リゲル君、そして彼の3人だけの小さな隊だったけれど、そのロイド隊の功績は目覚ましく、かなり話題となっていた。
確か、リゲル君が軍を辞めてしまったので解散になってしまったのだけれど────
「あ。ロイドの隊だった人、ですよね……?」
「うん、今はアルフレッド隊だけどね。
オレも今相手探してるんだ。よかったら3人で組まないか。
僕は君たちに全面的に協力────と言う約束はできないから、当然、君たちが嫌じゃあ、なければなんだけれど」
そう言って、ヒルベルトさんは手を差し出してきた。
乗るなら握れ、でなければ振り払え、と言うことか。
「エリーさん、この人信用して大丈夫なの??
急に出てきて、ずっと話し聞いてたみたい。怪しくない……?」
「う~ん……」
そう言う貴女も────とは流石に言えなかった。
そもそも、時間もないことだし、私は人を選べる立場にはないことを思い出す。
逆に、チームとして動けるならこんなに頼もしい2人もいないか────
「分かりました。2人ともよろしくお願いします……」
私は2人の手を握った。交渉成立の瞬間だ。
※ ※ ※ ※ ※
即興で組まれた3人のチーム、登録のために設営されたテントに向かうと、水晶のような玉を渡された。
「これは……?」
「受付の人が言ってたけれど、これは簡易的な魔道具だそうだ。
レースが始まってからは、この水晶の中に今の順位が浮かび出てくるらしい」
「ほーん、そうなんだね……」
どこからどう見てもただの水晶だ。試しに手の中で転がしてみるけれど、光を反射してキラキラ光るだけ。
けれど、実際触ってみると違いは歴然で、本物はもっと重いはずだ。
「ガラスよりはまぁまぁ固いけれど、力が加われば破壊も十分可能な強度だ。
まったく、そんな物どこで作ってんだか……」
「何のこと……?」
「こっちの話だ、それより参加前にいじりすぎて割ってしまったらその時点で失格だから、気を付けなきゃあ、ならんね。
それと、必要なもののピックアップしようか」
周りを見ると、他の出場者たちも既にレースの準備に取りかかっているところだった。
食料なんかは、この距離を移動するには当然必要になるだろう。
「どうやら、登録していない武器とかでなければ、レースに持ち込めるものはあるみたいだ。
開始は2時間後って言うのも、チームを組むだけじゃなくそれらを用意するための時間じゃあ、ないかな」
「食料に、水────忘れ広野を移動するなら、ロープも必要になるかもしれませんね」
私だけならある程度はきーさんで補えるにしても、消耗品のたぐいは、必要になってくるものもある。
普段馬車で移動している分、こういう足が基本の移動は慎重にならなければならない。
「あ、いいこと思いついた! はいはい!」
「はい、レベッカさん」
「馬車借りてはどうかな? 足で移動するより、絶対速い!
正面門の近くで、馬車なら借りれるはずでしょ?」
「あー……」
一応武器という扱いでない以上、それは可能だと思う。
実際馬車を使えば、人間ではつかれてしまうような距離も、楽々移動できるので、その点では重宝するだろう。
「馬、か。それはいただけないな」
「どうして?」
「今回のレース、もちろん途中で参加者同士の闘い、と言うことになるだろう。
ルール自体それを縛っているわけじゃあないし、
もし闘いが禁止されたルールなのならば、そもそも登録した物以外の武器の持ち込み禁止、などというルールは存在するはずがない。
それは主催者側も、この2回戦は切った張ったの展開を想定しているということだ。
「まぁ、そうだよね……」
「そんな中で、馬車なんかの乗り物に乗っていれば、いいマトになるんじゃあ、ないかな?」
「あ、そっか」
だから、今回はこの長い距離を、自分の力だけで動くことが必要となる。
体力には自信がないのだけれど、そんな私が勝ち残る術などあるのだろうか。急に不安になってきた。
「まぁ、時間もないことだしさっさと用意するものを決めてしまおう。
忙しくなってきたね。ワクワクしてきたじゃあ、ないか?」
そう言って、彼は不敵にメガネの弦を直す。
どえやらロイドやリゲル君と長い間やってきたということもあって、彼も相当変わり者らしい。