どうやら他の参加者から奪ったらしい鎖を振り回しながら、リゲル君は確実にロイドを狙った一撃を放つ。
それも彼はなんなくかわすと一気に接近して拳の一撃を放った。
「ははははっ! 止まらないんだよっ!」
あれは多分、ロイドが前に言っていた男同士の闘いというやつだ、怖いなぁ関わらんとこ。
「オラ! テメェが!! 喰らえよっ!! “真正面だこの野郎”!」
「がっ────!」
迫った拳を防げなかったリゲル君が、後ろに大きく飛ぶ。
いや、あれは半分勢いを殺すために自分で跳んだのかな──?
「────って、あれ?」
「おぉっ! おぉっ! エリー! エリーじゃないか! 殺るかい!?」
「や、やりませんよ……」
眼をキラッキラさせたリゲル君が、眼の前に転がってきた。
彼は武器を持って戦いがヒートアップすると、口調や性格がとてもハイになる。
スピカちゃんの時にも少しその片鱗は見せていたけれど、ロイドが相手ともなるとここまで気持ち悪いのか。
「なんでさ! 殺ろうよ!」
「殺りません勝てません。バイバーイ」
こういう時のリゲル君は基本的に関わらない方がいいんだ。
普段なんとか彼を人間たらしめている「配慮」というやつが、まるでなくなってしまう。
「待って待ってよ。ま、冗談はさておき、ホントに手伝ってほしいんだよねぇ」
「あのぉ────言っちゃなんですが、情緒大丈夫です?」
「高揚も冷静さも、闘いには必用だよ。
それより、2人でアイツやっちまわないかい?」
「アイツって────ロイド?」
確かに、彼は間違いなく強敵、それも優勝候補並みだろう。
去年の大会では4位──それも去年負かされた1位だった人と3位だった人は軍就任から6年目で、今年からは参加資格がないらしい。
だからロイド・ギャレットの優勝と言うのも、かなり現実味を帯びてくる。
今後私の驚異になるかもしれない相手として、早めに同じくらい強いリゲル君と力を合わせると言うのは、まぁ作戦としてはかなりいいものだろう。
まぁ、リゲル君が裏切らなければ────
「今だけここだけ僕と組む、悪い話じゃあ、ないんじゃないかな?
時間がないよ。で、どうするの?」
「いや、遠慮しときます。今アイツを相手取りたくはないです」
「ま、普通はそうだよね」
そんな
「テメェら、闘いの場で余裕だな。どーせ自分は残るから適当やっとこうってか?
嫌いじゃねぇぜ、そう言う手抜き業務はよぉ」
「いや、決してそんなことはないよ」
「いやいやいやいや、決してそんなことはないですってっ……」
片や冗談半分のリゲル君と、片や本気の私。
まぁ、この余裕も経験の差ってやつだろうか。同期のはずなのに、悲しいなぁ。
「それともオレを2人で突き落とす作戦でもたててたか?
いいぜ、エリー1人増えたところで何ら問題ねぇ、かかってこいよ雑魚共」
「ふぅん、僕に苦戦してたくせに、よく言うよねぇ……」
雑魚と言われて、珍しくリゲル君が反応する。
あれ、おかしいな。この程度の煽りで反応するような人ではないんだけれど。
「いやねロイド、君はまだ根に持ってるのかい?
僕が軍を辞めてしまったこと、それで隊が解散になってしまったこと。
それをよく思ってないんだろう?」
「根に持ってる? まさか……?」
あ、根に持ってるんだな、ロイドの反応ですぐに分かった。
彼は嘘をつくとき首を鳴らす癖がある。
「テメェは王国騎士、オレはリーエル隊、場所は違えど国のため人のため、ご苦労なことじゃねぇか。結構なことじゃねぇか。感心なことじゃねぇか」
「ふーん?」
2人の間に、一色触発の空気が流れる。
まるで皆が落ちまいと闘う周りの喧騒の中、2人の時間だけが止まったみたいだ。
「お前の事は、別に恨んじゃいねぇし根に持ってもねぇよ。
ヒルベルトでもあるまいし、オレがそんな小さく見えてたなら心外だぜ
そう言えば、リゲル君が辞める原因の一端は私にもあるのだからあんまり関わりたくない話ではある。
「ふぅん、そう思うのが思い過ごしだったんなら、いいんだけど、ね。じゃあ僕は失礼するよ」
「待てよっ!」
怒りに身を任せた拳──ロイドが後ろから不意打ちにかかってきた協会員一人を、見もせずに殴りつけた。
あぁ、可愛そうに、彼も場外。
「なにさ、まだ用があるの?」
「用じゃねぇ、野暮用だ────だが約束は約束だろ?
テメェが辞めたこと、気にしちゃいねぇが、ケジメはつけろよ。
去年の今頃からオレぁこの時を、ずっと待ってたんだぜ」
ビリビリとロイドの輪郭が曖昧になり、そこから金髪の戦姫が見え隠れしている。
ロイドの中にいる概念精霊との“精霊天衣”で彼は戦闘力を大幅に上げる代わりに、女性の姿へと変貌する。
そして【リミット・イーター】──限界まで自分の力を引き出す彼自身の固有能力により、【百万戦姫】ロイド・ギャレットは誰に求められないほどの化け物へと成り代わる。
「最強を決める大会だ、出たからにはぶつからねぇ道理はねぇよな」
「その姿になるってことは、本気を出すのかい?」
「あぁ、長くは使えねぇが、残念ながら楽しい楽しいこの時間も、もう終盤戦だ。
それとも、
ドームのモニターに映った残り人数を見ると、73人だった。
そうか、真ん中でこの2人がドンパチやってくれたお陰で、舞台のスミに人が集まってかなり早めに試合が運んだんだ。
もう約20人、なんとか生き残りたいけど────
「だからリゲル……な?」
「全く君は──いいさ、今度こそ本気で、やってやるよ……」
とりあえずここの2人は私には関係のない男同士のお話だ、身内同士のゴタゴタは他所でやってほしい。
私はこの隙にでも、こんな災害とは別の場所で成り行きを見守るとして────
「っと、まぁそんな因縁今はいいよ。それより今ねエリーと話してたんだ。
戦いの場でエリーと合間見えるなんて、初めてだねって」
「あぁん? あー、そういやそうだな……」
こっそり逃げようとした瞬間、不穏なリゲル君の嘘が聞こえてくる。
ここで私が話題になるのはとても不味い気がするんだけど────
「エリーさ、強くなったん、だよね? 僕一度お手合わせ願いたいなぁ」
「はっ、なるほど──?
エリーはどこまで残るか分からねぇし、確かにそんなチャンス一生ねぇかもな! お前よりエリー、先殺っとくか……?」
あぁ、こんなことになるなら早めに逃げておけばよかった────
「えーっと、つまりか弱い女の子相手に優勝候補の大男2人がかりで、無慈悲にも攻撃をしかけると?
か弱い女の子自身が言うのもあれなんですけど、その──お2人は世間体とか、気になさらないんですか?」
「全然? ウマイのか、それ?」
「それを
瞬間、私は持てる全身全霊をもってその場を駆け出した。