居場所というのは、得てして勝ち取るものだと、誰かが言った。
その考え方、その捉え方は好きじゃないけれど、間違いないと肯定する自分もいる。
居場所とは、誰かから奪って勝ち取るものなんだと。
たとえばあの日私は顔も知らないどこかの誰かを蹴落として、軍に合格した。
d級試験のあの日だって、ムカデやムカデ野郎を倒していなかったら、今頃は彼の代わりに私たちが死んでしまっていたはずだ。
だから、だからこそ私は──無意識に勝ち取った、勝ち取ってしまった場所を何よりも大切にしたいと思っている。
大きいにしろ、小さいにしろ、それが自分にも気づかないほど些細な出来事にしろ────
ここにいたいのなら、顔も知らない誰かから課された居場所を奪う
※ ※ ※ ※ ※
リーエル隊第58番小隊、以前私とスピカ、リタの3人が所属して、成長して、敗れた
あの頃の想い出は楽しかった日々と、死ぬほどきつかった日々が同居している。
私以外、2人とも別々の居場所を見つけた今、その場所には未だに居座り続ける私とは別に、新しい2人のメンバーが加入した。
「終わったわね~、初任務はソニアも一緒に行けて良かったわ~」
「そーだね、アイドルのお仕事空いてて良かったね。
それにレベッカ隊長の指揮があったから、とても充実した任務だったよ」
「やめて、ホントやめて、私何もしてないから……」
私は目の前を歩く2人に、不安になって声をかけた。
「ねぇ、2人とも──始めての任務、ありがとう。
あの、特に何もなくてよかったけどさ。こんな感じでほんとによかったの……?」
2人は、不思議な顔でこちらを見る。
「荷物の運搬任務なんてこんなもんじゃないかしら?
ソニアたち新結成のメンバーに任せるには、まぁこんなところが妥当だと思うわよ」
「そうだよ、一人だけ馬車運転できないのは気にすることないって。
年齢制限あるんだからしょうがないじゃん」
「は、歯に衣着せぬ言い方ね……」
「あ──う、うん! それは感謝してるんだよ! 2人とも交代でありがとう!
そうだけど、そうじゃなくてさ……」
前の隊の時はよく任務にはフェリシア教官かリーエル隊長が付いてきていたから、ずっと途中気の抜けない時間が続いていた。
主にフェリシア教官は厳しくて、リーエル隊長はめちゃくちゃなことを言い出すから。
しかも荷物の運搬という任務は、前回私たちが大ムカデに襲われたd級試験の時の任務でもある。
正直馬車の操縦がないのを差し引いても、こんなにのんびりできるとは思わなかった。
「あー、そんなことがあったのね。それは大変だったわね……」
「なにそれ変わってるねリーエル隊って」
「ねぇイスカ? 今自分もそのリーエル隊だって忘れてないかしら……?」
リーエル隊第58番小隊、その居場所には今、私が休職して戻ってきてから見つけた、仲間がいる。
元マッサージ師で元ララ隊、植物を操る能力と回復魔法が使えるヒーラーで、エリーさんの同期のイスカ・トアニ。
軍所属の現役アイドルで元バルザム隊、軍放送のプロマの子でこの街なら知らない人がいない、エリーさんの後輩のソニア・アイリスガーデン。
それと、特に突起することのない経歴に、d級試験合格から3ヶ月お休みしていた私、レベッカ・アリスガーデンの3人の小隊。
元々私以外は全く別のメンバーだったと思うとちょっと複雑だけれど、ここがいまの私にとって軍での居場所だった。
「まぁ、とりあえず街にも帰ってきたことだし、リーエル隊長に報告も終わったことだし。どっか打ち上げでも行く?
僕らの小隊とリーダーがd級に昇級してからの、初の任務成功記念だよ」
「いいわね賛成! ソニアも久しぶりの任務で新人の頃思い出すわぁ……」
2人は私より先輩なので、今回の任務でも色々と教えてもらうことが多かった。
しかもまだ年齢的に私は馬車の操縦もできないので、リーダーなのに2人に頼りっぱなしだ────
「ねぇ、リーダー何が食べたい?」
「え??」
「夕飯打ち上げするんだよ。何が食べたい?」
全く別の事考えていた。
そっか、お夕飯かぁ、何がいいかなぁ────
「パスタ、かなぁ?」
「ボンゴレ」
「ラザニア」
どうやら2人ともおんなじような気分だったらしい。
ちなみに私はクリームパスタかな。
「どっかいいお店ある?」
「んー、特には」
「じゃあソニアがこないだ取材で行ったお店行ってみない?
この時間あまり混んでないからオススメよ!」
決まり、こうして私たちのはじめての打ち上げ会はパスタパーティーに決まった。
※ ※ ※ ※ ※
「よくよく考えたらパスタパーティーってなによ……」
「アサリ高かったね。お値段上がってるの忘れてたよ」
「で、でも楽しかったよね!? 楽しかったよね!?」
盛り上がりすぎた弊害なんだろうか。
お店を出る頃には私たちは結構冷静になっていて、少しゲンナリしていた。まぁいいか、楽しかったし。
「結局食べれずにお持ち帰りだし、今度からは自重しましょう……」
「う、うん。それはそうだね……」
お夕飯が終わると、もう夜の闇も深くなって辺りはもうすっかり夜中の空気に変わっていた。
そろそろ解散、みたいな雰囲気が私たちの間に流れる。
「じゃあ明日は訓練場で──って、ソニアは違うんだっけか?」
「うん、プロマの撮影があるのよ。ごめんね」
「じゃあ任務もないし、僕とレベッカ2人ぽっちで訓練だね」
最近小隊を組んでからはこんな感じで、任務の時以外はイスカと2人で訓練か、ソニアがいるときは3人で訓練。
たまにリーエル隊の他の隊の人たちも合わせて訓練もするけれど、その人たちは大抵私たちよりもかなり上級の人たちなので、そういうのは稀だった。
まぁ、そのうち訓練についてけるようになるから心配ないよ──とイスカはいうけれど、周りから聞いた話、イスカは実は9ヶ月でc級入りをした天才だった。
普通なら少なくても3年、下手したら5年て言われるくらいだからそれこそ怒涛の出世ってやつだと思う。
そんな人の言葉なんか信じられない──と思うのと、じゃあせめて足を引っ張らないようにしないと──と思うのが、今のイスカに対する正直な思いだった。
「どーせ2人だし緩くやろうねー」
「え、うん……」
見透かされたように、気の抜ける発言をされた。
どうもたまにイスカには人の心が読めるんじゃないかってときがある。
「じゃあ、また明日──って、ん?」
ちょうど3人の家の別れ道に着いた時、近くの路地から女の子の声が聞こえた。
こんな夜に、何だろう────
「どうしたのレベッカ」
「いや、声が聞こえてきて……」
「声? あ、ホントだ。でもこの声って────」
「ちょっと私見てくる!」
こんな夜中に子どもが迷子になってるなら放っておけない。
反射的に走り出すと、すぐ近く建物の間にうずくまるように、声の主がうずくまっていた。
「だ、大丈夫!? 何があったの??」
「オナカスイタ……」
「えぇ、お腹空いたの?」
迷子とか、事件とかそういう類いじゃないことに安心はするけれど、お腹が空いて動けないっていうのはある意味一大事だ。
水平服を着た女の子──まぁ、一応は身なりもしっかりしているから、家や着るものがない訳じゃなさそうだけれど。
「とりあえず大丈夫みたい。ごめんねソニア、イスカ──って、あれ?」
振り替えると、さっきまでそこにいたはずの2人がいなくなっていた。
あれ、2人ともどこに────
「あれ、お姉さんその手に持ってるのは────」
「さっきお店で持ち帰ったパスタだけど、食べる?」
「いいのっ!?」
今さっきまで死にそうな声をあげていた人間とは思えないほど勢い良く、彼女は迫ってきた。
正直夜の闇の中で一瞬大声をあげそうになる。
「えぇ? あぁ、もちろんいいよ」
「ありがとう!」
ほとんどふんだくるように、私の手からパスタを受け取った彼女は、その場でムシャムシャとスプーンフォークも使わずに、容器に口を着けて食べ出した。
なんか、食べ方が非常に汚い────
「ま、満足かな……?」
「うん、一応ね」
「一応って────」
「とりあえず、お姉さんありがと! 初めましてだね!
オイラはライル・レンストっていうの!」