第107話 横丁

ヤジマとキタザワは、

病気屋にもらった処方箋を手に、

がらくた横丁にやってきた。


すれ違うのがやっとの細い路地に、

がらくたやダンボールがあちこちに積まれ、

配線や配管などは剥き出しになっている。

そんな中、入口と思しき扉があちこちにある。

ヤジマとキタザワは、細いがらくた横丁の路地を歩き、

薬師の店を見つけた。


「いらっしゃい」

扉をガラガラと開けて中に入ると、

デニムのワンピースの少女が挨拶した。

ぼさぼさの長い髪を後ろでしばっている。

ヤジマほどではないが、気の強そうな目をしている。


「薬師さん?」

と、キタザワがたずねる。

「うん…あ、処方箋?」

薬師がヤジマの持っている処方箋に気がついた。

「ああ、うん」

「ちょっと見せて」

薬師は処方箋を見て、勝手に頷くと、

「待ってて、この薬なら作ってあるから」

と、奥へ行った。


やがて出てきた薬師の薬を、ヤジマは飲んだ。

「にが…」

思わずヤジマが呟く。

「良薬口に苦し、です」

と、薬師に笑われた。

そこへ、

「お邪魔するよ」

と、くわえ煙草のひょろりとした男があらわれた。

「あ、玩具屋さん。もう、おもちゃ出来たんですか?」

「ああ、見たいって言っていたからね。持ってきたよ」

玩具屋のおもちゃとやらを、薬師は興味深くながめている。


「それじゃ…邪魔した」

と、薬を飲み終えたヤジマが立ち上がる。

「あ、君、ちょっと」

「なんだよ…」

少し元気になったヤジマが、玩具屋を睨み返す。

「いや、一番街のバーに行く予定はあるかな」

「バー?」

「ヤジマさん、お酒好きですよね」

キタザワがそう言えば、

「じゃあ、一番街のバーに、このおもちゃを届けてくれないかな。行くついででいいから」

「なんでそんな…」

「いいじゃないですか。俺が持っていきますよ。ついでに一杯何か飲みましょうよ」

「ふん…」


ヤジマは、人のいいキタザワがおもちゃを受け取るのを待ち、

薬師の店を、がらくた横丁を、あとにした。