第106話 太陽

二番街の喫茶店、ピエロットの、ギター弾きが、

いつものテーブル席でうとうととしていた。


ギター弾きは夢を見た。


太陽が戸惑っている夢だ。

太陽が昇ることで朝を迎える町は、

太陽が戸惑っているので、朝が来ない。


ギター弾きは、太陽のもとへやってきた。

太陽は少女だった。

ただ、自分が太陽であることを忘れているようだ。

何故昇らなければならないか、

昇るとはどうすればいいのか、

戸惑っていた。


「自分の中の流れを信じるんだ」

ギター弾きはそう言う。

自分の中の流れを感じた、

太陽は次第に輝いていく。

「そう、君なら空にも行けるはず」

夢でなら誘導できる。

「おいで、昇っていくんだ」

ギター弾きが誘導する。

太陽が戸惑いながらついていく。


輝く太陽が町を照らす。

朝がやってきた。

太陽は自分の輝きに満足した。

太陽は太陽であることを思い出した。

そして、ギター弾きに深々と礼をした。


ギター弾きの夢はそこで途切れた。

目が覚めたのだ。


「俺の太陽だった…」

ぽつりとギター弾きが呟いた。

「太陽は遠くで輝いているのがいい」

ギター弾きはピーンと弦を鳴らす。

そして、歌は歌わず、

ピエロットの中で流れるオルゴールの音に合わせてギターを奏でる。

それは美しい響きとなった。


「どこかにいる太陽…太陽に俺の音は届いているか?」

ギター弾きは斜陽街の一角で、

控えめながらも、

どこかにいる戸惑う太陽に向けて、ギターを奏でた。


夢の中のように、

戸惑って昇れない太陽に向けて。

太陽をが昇れるように、

あの町に朝が来るように、

ギター弾きは祈りを込めてギターを奏でた。