第94話 橋

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

緑の葉の描かれた扉の向こうの世界の物語。


少年は狐を、なおも追っていった。

狐は追いつけないように、

それでも視界から消えないように、

走り続けた。


もう、少年のいた町からはかなり遠くに来てしまっている。

それでも少年は狐を追っていた。


目の前に、石の橋が見えてきた。

狐は何の躊躇もなく渡り、

少年も川の音が下で鳴る、橋の上を渡っていった。


やがて、森の中になる。

日は高い。

さっきの林より木漏れ日が少ない。

山の中にでも向かってしまっているのだろうか。

でも、時々さしこむ木漏れ日は眩しかった。


遠くで、ざぁざぁと音がする。

道はそちらの方へ向かっていた。


視界が開ける、と、

そこの下には流れの速い岩だらけの川が流れ、

川のずっと上に、危なっかしい吊り橋がかかっている。

目の前の道は吊り橋しかなく、

狐はやはり戸惑うことなく吊り橋を駆けていく。

そして、吊り橋の向こう側でちょこんと待っている。


少年は、吊り橋に足をかける。

ぎぃ、と、音がする。

とてもじゃないが、走ったら壊れそうだと少年は思った。

静かに少年は渡っていく。

その間も狐は橋の向こうで待っていた。


ぎぃぎぃ…


きしむ吊り橋を渡っていく。

そして、吊り橋を渡り終えると、

少年はふぅと息を付いた。

帰りはどうしようか、などと考えようとしたが、

その前に狐を捕まえないと、と、思い当たった。


狐は少年の考えを読んだかのように、

素早く走り出した。


少年はまた狐を追っていった。