第74話 花術

斜陽街から、黒い風が去ってからしばらくして、

二番街の小さな空き店舗に人が入った。

そして、人が入ったと確認されてから数日で、

店の前は花でいっぱいになった。


空き店舗に入ったのは、花術師と名乗る、品のいいおばあさんだ。


花術師というのも耳慣れないが、

どうも、植物…特に花に関するエキスパートらしい。

店の外に彩られた花、

店の中に彩られた花。

そして、店の中にところせましと置かれた、

種、球根、それからドライフラワーも。


花術師は、そんな花で彩られた店の中で、

揺り椅子に揺られながら花を編んでいる。

蔦を編んでいることもあれば、

花束を作っていることもある。


こんな事もある。

花術師が瓶の中に少量の水と、何かの種を入れる。

そして、その瓶を持ったまま、

揺り椅子でゆらゆらと居眠りをする。

そんなところに客が来ると、

花術師の持っている瓶の中、ムクムクと植物が成長し、

ぱっと花が開く。

そんな光景に客がびっくりしていると、

そこで花術師は目を覚まし、

「おや、お客さんでしたか」

と、笑うのだ。


花術師は年老いているが、

足腰はおもったほど悪くない。

とりあえず、花の手入れを出来る程度は。

時々斜陽街の店に、花をおすそわけにも行くらしい。

老いていても記憶の方もしっかりしているらしく、

斜陽街の入り組んだ道も、結構早くに覚えてしまった。

今は、番外地やがらくた横丁もしっかり覚えている。


二番街の一角で、

少しくすんだ斜陽街に、

控えめで、そして華やかに、

小さな花術師の店がある。


花のことなら種からまかせてもいい。

そんな店が出店した。