第7話

 走ること五分弱。充電が減っているのが気になるが、肉体的疲労は一切なかった。息もあがっていない。マリーの方はそうもいかず、ぜえぜえと呼吸を整えている。

「秋さん、ここです」

 マリーが扉を開くと、客がまばらな喫茶店の光景が目に入った。隠れ家風だ。

「この店にようこそ。ゆっくりしていってね」

 俺の容姿は誰からも気にされるみたいで、店主は目を合わせようともしなかった。

 立っているのもおかしいので、席に座る。俺達は食事が出来ないので、一番安いアイスティーの注文だけを行った。世間話の一つでも間に挟むか、と思い口を開けた瞬間。

「秋さんは、どうしてアンドロイドになったのですか?」

というマリーの問いかけがあった。

「わからない。朝起きたら、こうなっていた」

「へぇ……。実は、私も同じなんです。本来居た世界から突然こちらに来てしまって……こんなこと言われても、困りますよね」

「気にするな。俺も未だ混乱中だから」

「……そうなのですね。突然すぎて、よくわかりませんよね」

 マリーもこの状況に混乱しているみたいだ。当たり前なのだが、親近感を覚える。

そんなやり取りをしている間に、アイスティーが運ばれてきた。残すから惜しいと言えば惜しいが、そんなことを気にしている場合ではない。

『充電シテクダサイ』

 俺の体内から発される音声に、マリーも驚いたのか、目をまん丸く見開いている。慌てて充電メーターを見ると、赤く点滅したゲージと「5%」の表示。今から俺の家に戻っても、間に合うかどうかわからない。マリーは一言も発さず、ただこちらを見ている。

「マリー、悪いんだがこの辺で充電できるところはあるか?」

 マリーはやっと正気を取り戻したのか、一つの提案をしてきた。

「わかりません……。この店のオーナーさんに話してみるのはどうでしょうか。悪い人ではなさそうでしたし……」

「いや、流石に悪い……だが充電しないとマズいからな。やるだけやってみるか」

 店長に事情を話すと、最初は戸惑っていたもののコンセントを貸してもらえることになった。人のいい店長だ。

 コンセントを探すと、あっさり見つかった。俺の充電ケーブルを引き出し、コンセントに差す。

『充電が確認されました。オートスリープモードに移行します』

 途端に視界が真っ暗になった。最後に聞いたのは、「秋さん? 大丈夫ですか?」というマリーの声だった。